交換日記ブログ「里の茶店 万年貸切部屋」の中から、
里長・野間みつねの投稿のみを移植したブログ。
2008年6月以降の記事から、大半を拾ってきてあります。
 

「小説連載と関連コメント」のブログ記事(古→新)

 長老候補──。
 この世界《ミディアミルド》では、それは、一国に於いて、導者《どうしゃ》・巫女《みこ》・予言者といった聖職者達の束ね役を担う長老の、いわば後継予定者である。
 神官の長《ちょう》たる長老は、多くの国では単に、聖職者の束ねでしかない。しかし、レーナの場合は、文官の長たる宰相・武官の長たる主席将軍と並ぶ、王の相談役。故に、特にレーナの長老候補は、おいそれと遠出も出来ない長老の代わりに各地に赴くことが他国の長老候補よりも多いという。
 そんな訳で、マーナ暦《れき》デリーラ六年の仲冬《ちゅうとう》二の月、此度、近国レーナで長老候補の任に在るという青年が、マーナの第一王女ルディーナ・クアラ・オーディルの婚礼──但し、初婚ではなく再婚──祝賀の席に、レーナの文武官の代表と共に派されてきたのだが──
 マーナ王ララド・ゾーン・オーディルは、奇妙なことに、以前何処かでこの青年に出会っているような気がしてならずにいた。
 青年は、まだ若い。確か、十六だと言っていたか。少年と言っても差し支えない年齢かもしれない。だが、不思議に、幼いという印象はなかった。見目形が割に落ち着いた端整さを有しているせいもあっただろう。
(……リュウ・シェンブルグが此処にいた頃に、近従として付いていた……というわけでも、なさそうだが)
 数年前までマーナに“勉学の為に”──つまりは人質として──滞在し、今はレーナに戻って王位に即いている、当時のレーナ王子のことを思い返してみる。しかし、あの頃リュウに付いていた近従達は、皆、あの当時で十代半ばよりも上の年齢だった筈だ。この青年は、当時リュウの近従だったにしては、余りに若過ぎる。
 とは、いえ。
 長老候補に選ばれて一年ほどとのことだが、王族や文武百官が臨席する異国の宴に臆するところもなく、かと言って変に背伸びをしたり虚勢を張ろうとしたりするところもない。ごく自然に、宴席を……より正確に言えば、宴席に招かれている女性達の間を主として経巡って、嫌みのない愛嬌を振り撒いている。いつもなら、このような席での女性あしらいの目立ちっぷりは“ノーラ家の不良息子”こと近衛副長ノーマン・ティルムズ・ノーラのほぼ独壇場なのだが、遠来の客に対する物珍しさや好奇心も手伝ってか、マーナの貴婦人達の人気は、今のところはこの、何処かさらりとした明るさを持つ年若い異国の長老候補の上に集まっているようだった。
 さぞかしノーマンは面白くなかろうな、と口中に呟くと、ララドは、玉座から腰を上げた。御退出か、と動きかけた近従ふたりを手で留めておいて、玉座の前の階《きざはし》を軽々とした足取りで降りる。
「ルディーナの祝いの席だ。久方振りに、皆とも踊りたい。王太子の昔に戻ってな。──楽士達に、次の曲にカーリダー・ガダリカナを、と伝えよ」

「……あれが、レーナの長老候補か」
 いつものように宴席の片隅に腰を据え、踊るでもなく酒を飲むでもなく料理を頬張るでもなく、ただクァイ水《すい》──基本、水に柑橘の果汁を垂らして拵える、わずかに甘酸っぱい、無色透明の飲み物──の杯《はい》を傾けながら人模様の傍観を決め込んでいた青年将校は、かなり興味深そうに、異国から来た黒褐色の髪の長老候補の姿を目で追っていた。


 こんにちは、母を九州へ送り出し、帰宅後は昼寝をしていた(汗)野間みつねです。

 昨夜、トップページ30,000番キリ番ゲッターであるリクエスト主の聖子さまから読了のお知らせを頂きましたので、キリリク作品「レーナから来た青年」の連載を本日から開始します。
 高校時代から書き綴ってきた、いわゆる“架空世界歴史物”に属する拙作『ティブラル・オーヴァ物語』の世界を用いて、書かれた作品です。
 当該作品のオフセット版2巻をお持ちの方は、御覧いただければおわかりになるかと存じますが、本伝では「22. 収穫祭の日」と「23. 水と炎」の間に当たる時期に起こった出来事を、リクエストを元に(?)、新たに書き下ろしています。

 以前のような一投稿1,000字という字数制限はありませんが、それでも全部を一度に載せるわけにも行きませんので(苦笑)、ある程度纏まった単位でお出しします。今連載では、テキストファイルサイズ2~3KBを、一回分の目安とすることに致しました。……以前の、およそ倍ですね(爆)。

 あと、今回の投稿分にはありませんが、傍点について。
 こちらへ掲載する時だけは、その処理は、以下の通りと致します。

  • 平仮名が続くなどして単語の区切りが不明瞭になりそうだと感じた時に付している傍点については、何も記さない
  • 語勢を強調する意図で付している傍点については、太字にして目立たせる
 纏め読みページ収録の際には、通例通りに処理致します。


 それでは、約1か月の連載となりますが、『ティブラル~』を御存じの方、そうでない方、宜しくお読み捨ていただければ幸いです。


「諸人に若い若いと言われている私よりも随分と若いのに、なかなか女性のあしらいに長けているようだな。話す女性話す女性が皆、楽しそうにしていて、笑いが絶えない」
「何処ぞの何方様かが、さぞかし面白くない思いをなさっておいででしょう」
 まだ年幼いようでありながらも大人びた印象を与える美貌を持つ侍者《じしゃ》の端整な唇から、刺《とげ》の潜んだ呟きが洩れる。青年将校は、「それは、どうかな」と小さく笑って、陽光の流れ落ちるような輝きを纏う金髪に縁取られた頭を軽く左に傾けた。
「どうしたところで所詮は他国の使節、この日限りのことと、堪《こら》えておいでなのではないかな。これが何年も“勉学の為に”滞在する相手であるなら、心穏やかではいられまいが。……おや」
 寛いだ姿勢でクァイ水の杯を卓上に戻した青年将校は、武官の儀礼用正装を身に纏った亜麻色の髪の女性武人が青年侍者を伴い歩み寄ってきたことに気付いて、慌てたとは取られない程度の素早さで姿勢を正した。
「これは、デフィラ一等士官《いっとうしかん》。お立ち寄りいただき光栄です」
「相変わらずだな、ケーデル一等上士官《いっとうじょうしかん》。このような隅の席に引っ込んで物見を決め込むとは」
 青年侍者がさりげなく引いた椅子に腰を下ろしたデフィラ・ターニャ・セドリックは、やや腰を浮かせて会釈する青年将校に穏やかな笑みを向けた後で、手にしていたメリア酒《しゅ》──ミディアミルドで広く愛飲されている、アルコール度の比較的低い赤い果実酒──の杯を傾けた。
「貴官ほどの地位に在れば、もっと積極的に色々な文武官と話して人脈を広げておいても良かろうに」
「残念ながら、幾ら地位があっても、何も実績を持たない私では、相手にされませんよ。有難いことにマーナは、血筋や家柄以上に実力や実績が重んじられる国ですから。……アル、済まないが、また、そろそろ頼む」
 ケーデル・サート・フェグラム青年は、傍らの侍者にクァイ水のおかわりを貰ってきてくれるよう頼むと、澄み切った碧眼を広間に戻した。
「あのレーナの長老候補は、レーナでは名門であるレグ家の出とのことですね」
「貴官のフェグラム家がクデンでそうであるようにな。建国の時から仕えているという意味で」
「レグ家からは今迄聖職者が出たことはないと覚えていますが……確か、元々は主に外交筋の文官を輩出していたとか」
「貴官の情報通は、いつもながら、余人の及ぶところではないな」
 デフィラは苦笑しつつ、内心でだけ呟いた。
(……この青年、己の出自に話が及ぶと、必ず身を躱《かわ》そうとするのだな)
 二年前、ナーヴィッツでの戦の後に出会って興味を持ち、呼び止めて言葉を交わした時にも、クデンの名家フェグラム家の出か、と問うたデフィラに、この青年は、無言の微笑みしか返さなかった。その後も、幾度か話す機会を得たが、彼は、己の出自の話になると、全く乗ろうとしない。否定も肯定もせずに黙っているか、さりげなく話をそこから引き離すかの、いずれかなのだ。決して恥じるような家の出ではない筈なのだが、彼自身ではそうは思っていないのかもしれない。
(まあ、どんな名家でも、大なり小なり問題を抱えているものだ。外から見ている者にはわからぬこともある。わかるものなら、自ずとわかる日も来るだろう。下手な詮索はせぬが賢明か)


我々の世界で言うと……

 ども、野間みつねです。
 第二回からは予約投稿なので、以後、御挨拶は殆ど抜きにして関連コメント&解説を上げてゆきたいと思います。


 この短編、このような場での連載は初めてとなる架空世界物なので、本伝を未読の方にはイメージが湧きづらいかもしれないと、極力説明を間に挟むように執筆してはあります。
 ただ、将来外伝集(=本伝を御存じであることが前提となっていると言えなくもない作品集)に入れようと考えている以上、本伝で既に説明し倒してあるのに余り色々と説明し過ぎるのも、くどいよなぁ……とも考えて、最低限度にしてもあります。

 そんな訳で、今回は、この話に登場する飲み物、「メリア/メリア酒」と「クァイ/クァイ水」について、身も蓋もない説明をしておきます。
 我々の世界にある物で置き換えると、そのイメージは……

 メリアは、赤ワイン。
 クァイは、炭酸抜きのキリンレモン(爆)。……いや、あそこまで甘くはないんですが(苦笑)。

 ……をイメージしていただければ、まぁ間違いは少ないかなーと(笑)。

★★★★★

 なお、デフィラさんが回想しているエピソードは、本伝2巻の「17. 鷹の子」に出てくるお話です。
 それから、クデンという国名、この物語の後ろの方でもちらっと出てきますが、これは、マーナの北隣に位置する、マーナの古くからの同盟国です。主人公その壱(笑)と主人公その弐(=ケーデル様)の出身国でもあります。

 それでは、また次回。


 ケーデル青年の横顔は、容易には他《た》に感情を窺わせない。だが、ひたすら異国の長老候補に目を向けているその横顔を見れば、デフィラには却って悟られるのである。この年若い将校が、更に何か自分の家柄について問われるのではないかと警戒し、決して気を抜いてはいないことが。
「……おや、珍しい。陛下が踊りの輪に加わられているとは」
 話題を変えるに丁度良い出来事に気付き、デフィラは、敢えて声に出して独りごちた。ケーデル青年は、ちらとデフィラの表情に目を向けたが、すぐに今度は、デフィラの視線が向いている辺りに視線を転じた。
「曲が、カーリダー・ガダリカナに変わりましたね。やっと武官の自分が本領発揮で輝く出番だぞと張り切る御仁が、此処ぞとばかりに早速デフィラ一等士官をお誘いに来ることでしょう」
「……貴官、言う時は言うのだな」
 何げなさそうに発された青年将校の皮肉混じりの言葉に苦笑したデフィラは、だが、不意に横合から掛けられた声に振り返り、左右で青に緑と色の異なる目を思わず円くした。
 一瞬遅れて気付いたケーデル青年も、咄嗟には反応出来なかったようで、ただぱちぱちと目をしばたく。
「ええと、セドリック家のデフィラ嬢でいらっしゃいますよね」
 邪気の乏しい笑顔で声を掛けてきたのは、いつの間に寄ってきていたのか、あのレーナの長老候補だったのである。
「レーナの長老候補、ソフィア・カデラ・レグと申します。もし宜しければ、私とガダリカナを踊っていただけませんか」
「なっ……」
 少しだけ離れた所から、引き攣り気味の呻きが届く。デフィラは敢えてそちらには目を遣らず、ソフィアと名乗った黒褐色の髪の青年が差し出す右手を眺めた。
「……お受けしても良いが、小さな筆胝《ふでだこ》しかない手では、ガダリカナは踊り通せまいに」
「踊り通せないのは百も承知です。ですが、ガダリカナでなければデフィラ・セドリック嬢は踊ってくださらない、との話を、皆様から伺いましたので……前奏を耳にして大急ぎで駆け付けた次第です」
「……それは、どうしても私とは踊っておきたかった、という意味か」
「そうです。実は別の目論見もあるのですが、説明していたら前奏が終わってしまいますので、それはまた踊りながらでも」
「こら、ちょっと待て」
 先程の呻きの主が、遅れ馳せながら割って入る。黒ひと色の服《ドージョ》に純白のマント《マイルコープ》そして腰には細身剣《ディラン》という武官の儀礼用正装に身を包んだ、黒髪の青年。年の頃は二十代後半、それなりに日に焼けた肌と相俟って鍛え抜かれているという印象はあるが、過ぎた無骨さは窺えない体格。恐らく、腕の立つ武官なのであろう。ただ、己の感情を隠すことは随分と不得手らしい。普段は割に整って精悍なのだろうその顔は、不本意な状況に放り込まれて明らかに引き攣っている。
「踊り通せもしないくせにガダリカナの名手を誘うとはいい度胸だな、レーナの長老候補とやら」
「はい、国許でも時々言われます。顔の割に大胆不敵な奴だなとは」
 レーナの青年長老候補は、並の男なら怯んだかもしれない相手の睨み据えに遭っても、黒褐色の瞳にわずかに悪戯めいた笑みを浮かべただけで、応えた風もなかった。


今回のコメント&解説

 ども、野間みつね@予約投稿です。
 連載第三回では、噂の長老候補と、某近衛副長閣下(笑)とが、新たに物語に加わってきます。
 この長老候補ソフィア君は、名前こそ未だ本伝に出ていませんが、実は既に本伝の中でも登場してはいるのです(苦笑)。
 ただ、それが何処なのかを此処で明かしてもいーもんかね、とも思うので、敢えて説明はしませんが、本伝をお持ちの方は、3巻を読み返していただくと、似たような容姿の登場人物の存在に気付けるかもしれません……とだけ申し上げておくことに致したく(汗)。

【今回の、身も蓋もない解説】
 ドージョ : ミディアミルドの“大地の民”(=物語に登場する皆々は、自分達のことをこう自称している)が着用する典型的な服装の呼び名です。上衣は立て襟、カフスあり、袖の付き方はラグラン。腰の所をベルト(或いはそれに類する物)で締めます。裾は出したままです。男性(或いはデフィラさんのように裾長の服装を好まない女性)の場合、下はストレートのスラックス風でしょうか。裾は、儀礼用正装の場合は中長靴《ちゅうちょうか》の外に出されます。なお、後半で出てくる軽装の場合は、長靴《ちょうか》の中に入れられています。
 マイルコープ : 「マント」に読み仮名を付ける形で初出しているので、イメージが浮かばずに戸惑うということはないでしょう(苦笑)。後半で出てくる「コープ(肩掛け布)」を含めて、武官の場合は、左肩で留《と》められています。文官・聖職者は右肩。
 ディラン : まぁ、レイピアをイメージしていただければ大体宜しいかと。
 ガダリカナ : 物語でも後で説明が出てきますので、詳しくは後の回に譲りますが、元々は剣闘を模した剣舞です。

 それでは、また次回。


「当の本人は至って慎重なつもりで、勇気を出さなければいけない時だけしか、出していないつもりなんですけど。……黒のドージョに銀縁の白マイルコープをお召しということは、貴殿が噂のノーマン・ノーラ近衛副長閣下ですね。デフィラ嬢と並ぶガダリカナの名手とは伺っております。大変失礼しました。でも、今は私の方が先にデフィラ嬢をお誘いしたんですから、まずは私に答を伺う権利がありますし、それに……」
 そこで言葉を切ったソフィア青年は、何げない様子で広間の方を見遣った。
「……マーナ王ララド陛下が自ら踊っていらっしゃる時に、近衛副長閣下がそれ以上に見事に踊られて陛下よりも目立ってしまうのは、近衛兵としては如何なものでしょう」
 ぐっ、と言葉に詰まった近衛副長閣下は、デフィラの洩らしたくすくす笑いに、更にむくれ顔となった。……まあ、むくれ顔程度で済んだのは、近衛副長閣下がこの時に、珍しくも肩を震わせるほどに声を殺して笑いを堪えている今ひとりの人物の存在に、全く気付いていなかったから……ではあった。
「御心配なく、閣下。情けない話ですが、途中で息切れすることは保証しますから。踊り切れなくなったら、すぐにこちらへ戻って、デフィラ嬢はお返しします。……それに多分、別のガダリカナが、後でまた演奏されますよ。皆さん、おふたりのガダリカナは、デラビダで催される宴で一番の名物だと話されてましたから。見ずには終われない、と仰せの方も多数いらっしゃいましたし。私も楽しみです」
「光栄なことだ。……ノーマン近衛副長、済まぬが、今は堪《こら》えてもらえまいか。この長老候補殿が言うことにも理がある。貴殿とは、陛下が玉座に戻られてから踊ろう」
「あ、では、お受けいただけるのですね。有難うございます。それでは」
 軽やかに広間へ出てゆく二名を半ば茫然と見送っていたノーマン・ノーラは、ふて腐れた表情を隠そうともせず「……くそ生意気な」と呟くと、直前までデフィラが座っていた椅子にどさっと腰を下ろした。
 やや乱暴に卓上に片肘突いたところで初めて、この円卓の先客に気付く。
「──い、いつからいたっ」
 のけぞりそうになりながらも、ノーマンは辛うじて、腰を浮かせずに済んだ。両肘突き、絡み合わせた両手指に額を乗せて殆ど顔を隠すようにしていた青年将校が、問われてようやく顔を上げる。一見、冷静そのものの表情で……しかし、よくよく見れば、唇の端で笑いを堪《こら》えている顔で。
「デフィラ一等士官が此処にお見えになる前から、おりましたよ」
 ノーマンは唸ったが、それ以上には文句を言わなかった。彼が蛇蝎《だかつ》の如く嫌っている“青二才”ケーデルが座っていた場所は、此処へ来る前にノーマンが立っていた場所からは大きな鉢植えの木の陰になっていて、すわガダリカナとデフィラを誘いに飛び出した時には死角だったことは確かだ。しかし、近付いてからも気付かなかったのは、自分の不注意である。レーナの「くそ生意気な」長老候補に気を取られていたからとは、言い訳にもならぬ。
「……あのレーナの長老候補、ただ単に女性好きであちこちの女性達と語らっていたわけではなく、色々とこちらの話を仕入れていたようですね。……意識してやっているなら、侮れない。無意識でやっているなら、末恐ろしい。前者であることを願いたいものです」
 誰に向かって言うとでもなく、ケーデルが呟く。


 どもども、野間みつね@予約投稿です。

 第四回では、特に解説しなければならないことはないよーに思いますので(……誰かさんと誰かさんの間柄などという、物語の展開から読み取っていただけることを解説するのは反則(苦笑))、武官の階級の話をしておきませう。

 何処の国でも共通ですが、将軍府(正規隊)の場合、武官の階級は以下の通りです。

 一等将官~四等将官 : 三等将官以上を「将軍職」、四等将官を「準将軍職」と呼びます。「○○将軍」という呼び掛けの対象となるのは、三等将官以上です。四等将官までは、それなりの武勲を重ね続ければ割合すんなり上がれますが、その先へは、余程の功績を挙げた+その時に将軍職の定員に空きがない限り上がれません(苦笑)。
 一等上士官~三等上士官 : 上士官級から、王宮への出仕義務が生じます。なお、この階級のみ、“四等”は存在しません。現在は何処の国でも採用しているこの四等序列制を最初に導入した国に於いて、何故か四等上士官の地位に在る者が不慮の事故に遭って死ぬことが続いた為に、「験の悪い階級だ」と廃止されてしまったのです。
 一等士官~四等士官 : 「将校」と呼ばれるのは、この階級以上です。……まあ、流石に、「将軍」と呼ばれるようになれば、自然「将校」とは呼ばれなくなりますが(苦笑)。
 一等準士官~四等準士官 : 日常の武器携行と戦時の騎馬を許されるのは、三等準士官からです。
 一等兵卒~二等兵卒 : 徴兵で集められる、普通の兵士達です。

 近衛府(近衛隊)の場合は、将軍府とは異なり、階級と役職が必ずしも直結していません。
 マーナの場合を例に取りますが、他国の場合も、規模の大小はあれ、似たようなものです。

 近衛隊長 : トップです。当たり前ですが、一名しかいません。階級と役職は一致しています。王から任命されます。概ねは副長からのスライド昇進です。
 近衛副長 : 隊長の補佐役、近衛隊のナンバー2です。これも、一名しかいません。階級と役職は一致しています。隊長が中隊長経験者の中から選び、王と閣議の承認を得ます。
 一等近衛 : 階級。基本的には、近衛兵として戦闘能力が図抜けているかという一点だけで、昇進出来るか否かが決まります。極めて狭き門です。隊長或いは副長の推薦を元に、王から任じられます。
 中隊長 : 役職。第一から第七までの中隊の長です。上官によって、一等近衛の中から選ばれます。王や閣議の承認は不要です(報告は必要です)。中隊長ではない一等近衛は、中隊長の補佐に回りますが、直接の指揮下には入りません。
 二等近衛 : 階級。戦闘能力さえ他に秀でていると認められれば、上がれます。でも、決して広き門ではありません。中隊長の推薦を元に、隊長及び副長が奏上、王から任じられます。
 小隊長 : 役職。第一から第七十までの小隊の長です。上官によって、二等近衛の中から選ばれます。王や閣議の承認は不要です(王への報告だけは必要です)。小隊長ではない二等近衛は、小隊長の補佐に回ります。人員的には、中隊長の直接の指揮下に入る形となります。
 三等近衛 : 階級。圧倒的に多くの近衛兵が、此処止まりです(汗)。
 近衛見習 : 階級と役職は一致しています。正規の近衛兵の下で、雑用もこなしています。尚武の国マーナの場合、たとえ名門の子息であっても、一年間は必ず見習期間を経なければなりません。通常は特定の隊員に専属で付けられることはないのですが、例外的に、見習として最後と目される年(=正式入隊の一年前)には、その年に入隊した隊員の下に専属の雑用係として付けられます。正式入隊した初年兵がどういうことを経験するものであるかを傍で見ておくのが主たる目的です。

 ……まあ、普通こーゆーことは、本伝ならば物語の中で説明してゆくわけなんですが、この連載ではねぇ……(苦笑)。
 よくわかんなくなった時の参考にしていただければ幸いです。

 それでは、また次回。


本日分の解説付け足し、他

 こんにちは、野間みつねです。

 白牡丹さん、小さい画像有難うございます(笑)。何だか私は買わない方が良さそうですね(苦笑)。

★★★★★

 昨日今日と母から電話がありまして、今日の胃カメラ検査の後は10月15日まで次の検査が入らない(検査機器(MRI)の予約が一杯で、どーにも突っ込めなかったとのこと)為、季節の変わり目で衣替えの時期でもあることから、一旦こちらへ戻ってくることと相成りました。10月3日に一時帰宅の予定で、13日に再び九州へ旅立ちます。

★★★★★

 ……昨夜、我が赤鯉チームが物凄ーく悔しい敗戦(折角頑張って追い付いたのに、よりによってあのふたりに!)だったので、これはもう自分の出来る限り応援に駆け付けなければと、10月2日の神宮での燕戦のチケット、取りました(爆)。
 仕事を終えてから、あちこちのチケットサイトを覗いて回り、会員になっている中ではイープラスが一番いい席を持っているように思えたので、それから終電間際までの1時間近くを奮闘し、何とか購入しました。普段は、申し込み画面が先へ進まないので(会員になった当時はそんなことはなったんですが、リニューアル後に。多分、セキュリティソフトの関係と思われます)、利用しないんですが……。

 しかし、母が帰宅するのでは、土曜日の横浜戦観戦は無理そうですな……行く気満々だったんですが(苦笑)。
 ちなみに、ハマスタも3塁(ビジター)側から先に埋まっているようで、外野自由席は既に売り切れ、内野席も、いい席は残り少なかったっす(汗)。

★★★★★

 ま、それはさて置き。

 今回の連載分、今朝改めて読み返してみたら、ちゃんと説明しておいた方がいいことがあるじゃん、とゆーわけで、昼休みに出てまいりました(苦笑)。

 ソフィア君の台詞に出てくる、「黒のドージョに銀縁の白マイルコープをお召しということは、貴殿が噂のノーマン・ノーラ近衛副長閣下ですね」……これは、マーナ近衛隊の制服である「黒一色のドージョに白いコープ(肩掛け布)」が周辺諸国に知れ渡っているからこその発言です。余談ですが、後で出てくる“黒の部隊”という異名も、その制服姿から来ています。
 で、何処の国でもなのですが、近衛隊長のコープには金糸の縁取りが付いており、近衛副長のコープには銀糸の縁取りが付いています。ソフィア君が「銀縁の白マイルコープ」を見て相手が誰であるかを言い当てたのは、至極当然だった、というわけですね。

 では、また。


 ノーマンは黙ってそっぽを向いていたが、耳は傾けていた。彼は、容易に腹の底を見せない人間、特にケーデルのような、目の前で悪し様に罵られても腹の中に押し込めて平然と笑顔で受け流すような男は大嫌いだと本人の面前で堂々公言してのける男ではあったが、嫌悪の念はそれとして、ケーデルが有していると噂される分析力や洞察力までをも軽視していたわけではなかったのである。
「ミン殿は、今の青年、どう見ましたか」
「……そうですね……人目に対する平衡感覚が強い人物ではないかと、見受けました」
 急に話を振られた恰好になったデフィラの侍者ミン・フォウ・ディアヴェナ青年は、若干戸惑いながらも答を返した。
「人目に対する平衡感覚、ですか」
「はい。……元は剣舞のガダリカナであるにも拘らず男である自分の方が途中で先に脱落する羽目になると承知で、デフィラ様に声を掛けた。男として情けないと思われかねない姿を敢えて晒そうとするのは、人の目に映る自分はそれくらいで丁度良い、と当人が考えているからではないかと。……考え過ぎかもしれませんが」
「成程。恰好の良いところ悪いところ、双方を披露しておいて、世人《せじん》の目に映る自分が突出した印象を持たれぬよう、釣り合いを保とうとしていると?」
「はい」
「そうですか。……私は、もう少し違うことも考えていました。彼が口にしていた『別の目論見』という言葉も引っ掛かりますし」
 ケーデルは、手指をほどくと、椅子の背凭れに軽く背を預けた。
 そこへ、美貌の侍者アルが、新たなクァイ水の杯と共に戻ってきた。微妙にこわばった表情なのは、一体全体何事があって、自分の主と、自分の主を青二才呼ばわりで毛嫌いして憚らぬ男とが同じ円卓に着いているのかと、激しく訝っているせいだろう。
「ですが、まあ、裏付けのない臆測で物を言うのはやめておきましょう。……ああ、アル、有難う」
「……大体、何で食い物がないんだ、此処は。宴に来て、水擬《みずもど》きばかり飲んで、何が楽しい」
 デフィラが残していったメリア酒の杯を横取りするわけにも行かず、手持ち無沙汰で間が持たないのだろう近衛副長が、ぼそりと呟く。美貌の侍者は形の良い眉を跳ね上げたが、灰青色《ブルーグレイ》の瞳に不穏な光を湛えつつも、主の手前か、何も言わなかった。ミンは、此処は自分が何か取ってくるべきか、と考えたが、それを口にするより早く、美貌の侍者の主が苦笑混じりに口を開いていた。
「これは気付かず、失礼しました。……アル。戻ってきたばかりなのに済まないが、何か食べる物を見繕ってきてくれないか」
「……かしこまりました。お飲み物は」
「この光景を面白がって此処へお見えになろうとしているタリー・ロファ一等近衛が、ちゃんとお持ちになっている。食べる物だけで構わん」
 内心の嵐はそれとして、主《あるじ》に逆らう気まではないのだろう。侍者アルは一礼すると、再び場を去った。直後、入れ代わりのように到着したのは、ケーデル青年の予告通り、タリー・リン・ロファ一等近衛であった──確かに、両手に、メリア酒の杯をひとつずつ携えて。
「どうした風の吹き回しなんです、副長?」
 持参した酒杯を上官に手渡しながら、緑みの強い金髪に縁取られた温和そうな童顔には、好奇心の色が珍しくあからさまに浮かんでいる。


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