交換日記ブログ「里の茶店 万年貸切部屋」の中から、
里長・野間みつねの投稿のみを移植したブログ。
2008年6月以降の記事から、大半を拾ってきてあります。
 

「小説連載と関連コメント」のブログ記事(古→新)

まだ増えるか!(笑)

 ども、野間みつね@予約投稿です。

 長々と続けてきた連載も、第二十回まで辿り着きました。
 今回は、最後の新たな登場人物が追加されます。……まだ増えるんかい、と、みつね苦笑いでございます。
 ただ、この女性は、本伝には登場しない(……今のところは予定がない)、外伝集の幾つかの作品(……いずれオフセット版に移植予定)にのみ登場するキャラクターです。
 しかしながら、実は、前半で登場したマーナ側の登場人物達の内の何名かにとって随分と重要なポジションに座っているという、面白い女性でもあるのです。
 とはいえ、今回の物語では、その“重要性”を窺わせる記載は殆ど入れてません。この「レーナから来た青年」の展開にとっては、本筋ではない事柄ですからね(笑)。

 ……それにしても、主人公その壱。
 付けるんか、こら(汗)。

 では、また次回。


「ま、滅多に頼み事をしないタリー坊やが頼むんだから、掛値なしに大事なお連れさんなんだろうね。いいよ。坊やが迎えに来るまで預からせていただくよ」
「宜しくお願いします。それじゃ私はひとまず。──どうぞ、先生。また後程お迎えに参ります」
 ララドとソフィアを店内に送り込んだタリーは、軽く一礼してから、店の前を離れた。
「……さて、と」
 自分が昼食を摂る店を探しているといった風情で、ふらりふらりと歩き始める。幸いなことに、例の傭兵の関心は予想通りタリーの上にあったらしく、相変わらず適当な間隔を保って付いてくる。
「……こちらから、きっかけを作ってみる、か」
 小声で独りごつと、タリーは、手近な焼き饅頭《まんじゅう》の屋台に寄った。挽肉《ひきにく》入りのものと菜漬け入りのもの、そして玉蜀黍《とうもろこし》の粒入りのものを選ぶ。昼食としては正直なところ物足りない代物ではあったが、傍らに椅子と円卓を幾つか並べてくれている点で、人目の多い屋外で食べたいという彼の要求に応え得る屋台だったのである。
「お茶も下さいね。温かい方で。……はい、お代は此処に」
 丁度空いていた円卓の、通りを見渡せる椅子を選んで腰を下ろす。お茶をひと口啜り、ほっと息をつく。
 買ったばかりの焼き饅頭の中から、まず菜漬け入りのものを選んでぱくりとやったところで、影が差した。
「美味いか、それ」
 タリーは目を上げ、思った通りの相手をそこに見出すと、「なかなか、いけますよ」と、行儀悪くも咀嚼《そしゃく》しながら応じた。
「まだ、一種類目だけ、ですけどね」
「じゃあ試してみるさ」
 青い髪の青年傭兵は、軽く笑みを浮かべると、屋台の店先へ足を転じた。
 タリーは、またひと口お茶を啜ると、手中にあった焼き饅頭の残りを口の中へ押し込んだ。ふたつ目をどちらにしようかと迷い、ふたつ共を半分に割って見比べていると、青年傭兵が戻ってきた。
「相席させてもらうが、いいか」
「どうぞ」
 タリーは穏やかに返すと、結局先に、玉蜀黍の粒が餡《あん》になっている半割りを手に取った。
「……何で、両方とも割ってるんだ?」
「どちらが後口としていいかと迷ったんで、半分ずつ食べてみることにしたんですよ。両方食べ比べてみて、より後口が良さそうだと思った方を、最後に頂きます」
「変な奴」
 青年傭兵は小さく笑うと、自分が買ってきた焼き饅頭にかぶりついた。
「思い切ってどっちかを選んで食って、それで駄目だったら、失敗したな、で済ませた方が早いじゃないか。思い切りが悪い奴とか言われないか?」
「親しい先輩からは、確かに時々言われますね。『お前は、選択肢がふたつ以上あったら、取り敢えず全部を覗いてみてから決めようとする、さっさと思い切れ』って。……ところで、訊いてもいいですか」
「何を」
「確かに、さっき、目が合ったなあとは思っていましたけれど、此処まで付いてくるほどに関心を持たれたとは意外です。どうして付いてきたんです?」
「撒こうとするかな、と思ったんだ」
 青年は、ふたつ目の焼き饅頭を頬張りながら答えた。
「あの若い奴の護衛って感じで、しかも並じゃない、凄腕の武官だと見たからな。あの一瞬にあれだけ的確な捌きが出来るのは、突発的な危険に対処出来るよう日頃から厳しく鍛えてる奴だけだ。それだけの腕の奴が付いてるってことは、あの若い奴を含めて、かなり偉い奴のお忍びなんだろう。だから、付けられたら拙いと見て撒こうとするかな、と悪戯っ気を起こしたんだが……あんたは逃げなかったな」
「撒ける気がしませんでしたから」
 タリーは今度は挽肉入りの半割りを手に取った。


 どもども、野間みつね@予約投稿です。

 ……第二十一回。

 まぢですか。

 どーして、タリーさんと彼が、こーゆー展開になるの(焦)。
 どーやって、本伝で回収するんですか(泣)。
 此処で知り合っちゃったら、5巻の展開、かーなーり修正しなければならないでわないですかー! (爆死)

 一時は本当に頭を抱えました。
 でも、なかったことにも出来ない。……いや、「此処で綺麗に撒いちゃったら、何ちゅーか、面白くないんだもん」と感じた時点で作者の負け(苦笑)。

 ……しかし、転んでも只では起きない野間みつね。
 くそう、修正上等、知り合っちゃったもんはしょーがないやね、タリーさんには気の毒だけど、こーなったら将来の痛い展開を甘受してもらうか……などと“鬼・悪魔”の本領を発揮しつつ先々の話を練り直しているのでありました。

 なお、余談ですが、此処でタリーさんの見せている“思い切りの悪さ”は、誰かさんそっくりだったりします……(赤面)

 それでは、また次回。


「あの喧嘩騒ぎを見ただけで、君が相当な腕の持ち主だとはわかります。出来れば戦場で敵に回したくないと思いましたね」
「おいおい、あんた、マーナの人間だろ? 俺はマーナの傭兵だぞ」
 半ば呆れたような青年傭兵の台詞に、タリーは苦笑で応じた。
「傭兵は、正当な報酬に命を懸ける。国や王族への忠誠心で動くわけではない。それは、君達傭兵にとっては誇りでさえある筈です。……でも、ということは、傭兵である君は、いつかマーナの敵に回る可能性が皆無というわけではないなと、私には思えるんですよ。考え過ぎと言われれば否定はしませんけど」
「……変な奴」
 青年傭兵は、毒気を抜かれたような表情を見せた。
「正規隊の奴らは大抵、金目当てに戦う卑しい奴だと俺達を軽蔑してるのに」
「私は正規隊の人間ではありませんから、正規隊に対して何ら弁護すべき立場を持ちません。金を貰わない兵士だからその戦いは貴くて崇高だなんて断言されたら、そっちの方が妙な理屈だなと、私は感じます。……あと、正規隊の皆が皆、傭兵を蔑視しているわけではありません。そこのところ、逆に先入観で見ないでほしいと思いますよ。……って、嫌ですね、何だか説教じみてきて。そんな年寄りでもないんですが」
 タリーは肩をすくめた。青年傭兵が、三つ目の焼き饅頭をひと口かじった後で、小首をかしげる。
「……あんた、幾つだ?」
「私ですか。二十六ですよ。あと数か月で、二十七になります」
「げっ? 俺より十も年上だったのか?」
 切れ長の目を見開いて、青年は軽く呻いた。
「二十そこそこか、行ってても二十二、三かと思ってた」
「童顔だと言われますから。貫禄がないってことなんだろうな、と。まあ、もう少し年を取れば、年の割に若々しいと言ってもらえるようになるのかもしれません。……私の方こそ驚きですよ。十六で、あれだけの身のこなしとは。しかも、あの程度の兵卒達を相手に、本気で立ち回っていたわけではないのでしょう。まったく、末恐ろしい武人ですね」
「……あんたと手合わせしてみたいな」
「ええっ、冗談でしょう。私はまだ死にたくありませんよ」
 タリーは軽くいなしておいて、目の前の、残るふたつの半割り饅頭を見比べた。やや暫く考え込む。どちらを後に回すべきか、食べ比べてみても決めかねたからであったが、ふと思いついて、両方共に手に取った。ふたつの半割り同士を割り口で合わせ、両方を一遍に口に出来る位置から食べ始める。青年傭兵が爆笑した。
「成程、その手があったか。……俺は結構、本気なんだけどな。流石の俺も、マーナ近衛と刃《やいば》を交えた経験はないから。噂に聞く“黒の部隊《ディーリー・ナーナ》”が如何ほどのものか、あんたと手合わせすれば推測が付くかなと思ったんだ」
 タリーは動揺を面《おもて》に出すことなく、努めて淡々と焼き饅頭を咀嚼した。何故近衛兵であると見抜かれたのだろうかと、自分の発言を遡《さかのぼ》って考えてみるが、何処に問題があったのか、自分では見当が付かない。
「……近衛兵って、私がですか?」
「だってそうだろ」
 青年傭兵は、笑顔の中で鋭い目を見せた。
「戦場に出ることがあるのに、正規隊の人間じゃないと言う。勿論、傭兵隊の人間でもない。となると、もう、近衛隊しか残ってないじゃないか」
「ははあ、そういう推理でしたか」
 タリーは苦笑いを浮かべると、焼き饅頭の最後のひとかけを口中に放り込んだ。


 どもども、野間みつね@予約投稿です。
 ……これ叩いてるの、10月15日です(爆)。
 実は、前日分の予約投稿を叩いてから、1週間ほどが経過しています。

 ……しかし、転んでも只では起きない野間みつね。
 くそう、修正上等、知り合っちゃったもんはしょーがないやね、タリーさんには気の毒だけど、こーなったら将来の痛い展開を甘受してもらうか……などと“鬼・悪魔”の本領を発揮しつつ先々の話を練り直しているのでありました。

 ……ごっ、御免なさいっ、既に書いちゃいましたっっ(苦笑)。
 ムラ筆の本領発揮なのか、水星逆行(=私の場合、過去に積み残したこと・やり残したことに立ち戻る傾向強し)の影響なのか……

 ただ、書いてみた大量の文章(……えーと、最近の当サークル装丁の本で言えば、今のところ39ページ分(爆死))を、本伝の時系列の何処に入れるかは、まだ不分明です。
 一応、将来使える美味しい素材を下拵えしておいたということで(汗)。
 色々な意味でタリーさんには痛い痛い話となったのですが(笑)、某展開に関わるかねてからの懸案を驚くほど無理なく解決出来てしまったので、此処で思い掛けず彼と知り合ってくれた主人公その壱くんには大感謝です(笑)。

 ……という話を敢えて出したのも、今回、連載第二十二回での対話が、後々、その“タリーさんには痛い痛い話”に於いて意味を持つことになるから、なのでした(苦笑)。

 では、また次回。


「ですが、戦場に出ることのある人間は、それだけではありませんよ。それは何かと言えばそれが私の所属の答になるかもしれないので、言いませんけど」
「……まあ、いいさ。言うわけには行かない立場なんだろうから」
 青年はあっさり引き下がった。
「だけど、名前くらい訊いてもいいか? 俺はマーナ傭兵隊のミディアム・カルチエ・サーガ」
「傭兵隊のミディアム……」
 タリーはやや考え──そして思い出した。最近、周辺諸国で“青い炎《グルーグラス》”と恐れの込められた異名で呼ばれるようになりつつあるという若い傭兵のことを。
「……グルーグラス、という呼び名を聞いたことがありますが、それが君なんですか」
「自分から名乗ったわけじゃない」
 ミディアム青年は肩を上下に揺らした。それもそうですね、と微苦笑したタリーは、お茶を飲み干した。
「……私は、タリー・リン・ロファ。さるお方にお仕えしている武人です。……ついでに話しておきますと、城の中にも出入り出来る身なので、君が関心を持っている近衛隊の練兵を眺めることも多いですが、幾ら“黒の部隊《ディーリー・ナーナ》”と恐れられていても、それは多くの者が並の騎兵十人分に相当する力量を有しているというだけの話です。だから、例えば君が並の騎兵千人分に相当する力量を持っていたなら、彼らは君の敵ではないですよ」
「並の騎兵十人分というだけ、とは事もなげに言うもんだな。……で、あんた自身は、その“黒の部隊”の連中と戦うとしたら、どの程度だと自分で思ってる?」
 問われて、タリーは考え込んだ。謙遜するのが半ば習い性となってはいるが、ナカラ近衛隊長の指摘を待つまでもなく、自分は、隊内で二十名といない一等近衛兵である。また、先輩であり“マーナ随一の剣士《リラニー》”との誉れも高いノーマン近衛副長からも、「お前は、近衛隊の中じゃ、俺の次か、次の次ぐらいに腕の立つ奴なんだから」と何度となく言われている。
「……うーん、そうですねえ……三等近衛兵ぐらいなら、一度に五人まで、何とか相手出来るかもしれないと感じますね」
 結局、実際よりも随分と控えめに、タリーは答えた。マーナ近衛隊では、一対一だけでなく、ひとりで多人数を相手にする訓練も課される。如何に自分の身を守りつつ相手を減らしていくかという対処能力が問われるわけだが、タリーはこの訓練で、常に二十人以上を蹴散らしている。幾ら相手の大半が三等近衛だからと言っても、そのひとりひとりは並の騎兵十人分に相当すると言われているのだから、極めて単純に計算すれば、彼の力量は“並の騎兵二百人以上”ということになる。
 しかし、それを素直に答えれば、この青年傭兵は、ますます以て手合わせしたいと言い出しかねない。残してきた主君とレーナの長老候補のことも、そろそろ気になる。
「……何となく、五倍掛けして受け取っておいた方が良さそうだな」
 ミディアム青年はそう呟いて、自分が先に立ち上がった。
「どうも、あんたのお仕えしているお方とやらは、俺の雇い主のようだし」
「……はあ、信用されてないんですねえ」


やっと名乗る

 ども、野間みつね@予約投稿です。

 今回の第二十三回で、ようやく、主人公その壱くんが名乗りを致しました。
 彼の生涯の異名となる“青い炎《グルーグラス》”は、この頃、まだ、呼ばれ始めたばかり。まだまだ、その上に“恐るべき《ダグディグル》”と冠されるような鬼神の如き戦い振りを見せてはいない時期ですね。……うーん、まあ、その頃になると、かなり彼の状態が荒れているので(汗)、こんな話に平和に(?)絡むことはあり得ないのですけれど。

 とゆーわけで(?)、ミディアミルドに住まう全ての者の運命を紡ぐ女神アルケリア(……あ、一説によると、その正体は千美生の里の里長(爆死))は、主人公その壱ミディアム・サーガの運命の綴れ織りの上に、将来の布石として、此処で新たな文様を織り込んだのでした(笑)。

 ……裏を返せば、タリー・ロファの運命の綴れ織りの中にも(汗)。

 なお、此処での「極めて単純に計算すれば」は、掛値なし、極めて単純な計算に過ぎません。
 実際にそうである、という性格のものでもありまへんので、念の為(汗)。

 それでは、また次回。


「最初は迷ったさ。下町にいても違和感がない雰囲気だったからな。だが、暫く態度を見てれば、段々わかってくる。単なる無位無官の武家者が、俺にこれだけ色々切り込まれて、くそ落ち着きに落ち着いていられるわけがない。大体、本当に近衛隊と無関係なら、近衛兵だろうと言われた時に、もっときょとんとした顔をしたっていい。何のことやら、って受け流すような顔をされたから、間違いないと確信したんだ。……あんただって、何が何でも隠したいとまでは思ってないだろ。自分の口からは認められないだけで」
 タリーは、成程自分はまだまだ修行が足りないな、と苦笑いを浮かべはしたが、肯定はしなかった。
「君がそう思うのを止めることまではしませんが、どうも恐ろしく買い被られている気がしてならないということだけは言っておきますよ、ミディアム・サーガ」
「手合わせしてみれば、論より証拠でわかるんだがな。ま、余り困らせるのはやめておくか。あんたの名前は、頭の片隅に留めておくよ、タリー・ロファ。じゃあな」
 片手を挙げてから立ち去る青年傭兵の背中を見送ってから、タリーも腰を上げた。我知らず、ふうっと、嘆息めいた息が洩れた。

 タリーが馴染みの小料理屋であるという“月光《セタリナーサ》亭”に放り込まれたララドとソフィアは、赤毛の女主人がひとりで切り回しているらしいこの店の一番奥まった席で昼食を認《したた》めた後、食後のお茶を飲みながら、店に入る前に交わしていた話を続けていた。
「そこの通りって、他国の使節が通る道になり得るんですか」
「石畳が敷かれておる以上、あり得ない、とまでは言えぬな。滅多にないことだが、別の道を通ってもらいたい時もある。そういう時には、町に入る門の所で、その旨を通知させる。……だが、本当に、滅多にはない。メシュメル城へ到るには、ゾラド通りが最も近く、道幅も広く、また街路状態も良いからな」
 ソフィアは、お茶を啜りながら、うーむと唸って軽く眉根を寄せた。
「……宿舎は通常とは違っていたんですよね、あの時は」
「そう言えば、臨時で町中に置かれたと言っておったな。どの辺りだったか覚えておるか」
「そこは、さっぱり。何だかんだ言っても、子供でしたし。……あの時の匂いは、焼き物の匂いだったと思います。でも、鶏肉だとか魚肉だとかじゃなかった……気がしたんですよ」
 ララドが何かしら応じようとした時、女主人の「あら、タリー坊や、お帰り」という声が聞こえた。振り返った彼らは、歩み寄ってくる青年近衛兵の姿に特に変わった様子がないことを見て取り、ほっと息をついた。
「済みません先生、お待たせしてしまって」
「良い。まあ、座れ。──しかし随分と時を費やしたのだな。撒けなかったのか」
「撒くのは早々に諦め、相手の好奇心を或る程度まで満たしてやる方向へ持っていきましたところ、話が若干長くなりまして」
「えーっ、狡いっ、僕も話してみたかったのにっ」
 空いている椅子に腰を下ろしながらのタリーの答に、ソフィアは思わず抗議の声をあげた。
「申し訳ありませんでした」
 タリーは困ったような微笑みを浮かべて、ただ謝罪する。話の具体的内容について語るつもりは、どうやら、ないようであった。
「──はい、坊や、まずはお茶をどうぞ。昼食は?」
 赤毛の女主人が注文を取りに来る。


赤い髪は

 ども、野間みつね@予約投稿です。

 第二十四回、ミディアム君がこの話から退出してくれた後半、場面は、タリーさんが馴染みの小料理屋“月光亭”に移ります。
 ……このお店に関しては、語りたいことは山ほどあるのですが、本伝がせめて5巻まで進み、更に外伝が2巻、出来れば3巻まで出ないと、流石に語れません。うーむ、残念です……。

 ですが、ひとつだけ。
 このミディアミルド世界では、髪が赤いというのは、ちょっとばかり特殊な意味を持っています。
 大地の民にとって或る種の恐怖の対象ともなっている“野蛮な”騎馬の民ジェ族の血を引いている証として、侮蔑の対象となることがあるのです。
 無論、そんなことは生まれてきた当人には何の関わりもないことだからと、まるで気にしない者もいます。此処に集う面々も、そのような偏見とは無縁であることから、話は淡々と進むのでした。

 では、また次回。


「屋台の焼き饅頭を三つ食べてきたんで、余り量の多いものは……そうですね、久し振りに贅沢しますか。昼間っからで恐縮ですが、牛肉の醤油焼きをお願いします。白飯《しろめし》で」
「確かに、昼食にするには贅沢かもね。いいよ、丁度今朝、いい肉がクデンから入ったところだし」
「うわ、それは楽しみです。済みません、ドリー姐さん」
 赤毛の女主人が去ると、ソフィアは好奇心に満ちた視線をタリーに注いだ。
「あのー、あの女将さんって、タリーさんを“坊や”扱いするんですね。気の置けない、親しい間柄なんですか」
「ははは……ドリー姐さんから“坊や”呼ばわりされているのは私だけではありませんよ、若先生」
 お茶の木杯に口を付けた後で、タリーは、かぶりを振る。
「この“月光亭”は元々、ノーマン先輩……近衛副長が、近衛見習になる以前から贔屓にしている店で、その縁もあって、昔ノーマン先輩が第十三小隊の隊長だった頃に下に付いていた面々をはじめ、下町を歩くことを厭わない近衛兵達が、割に立ち寄る店なんです。そして此処では、ノーマン先輩も含め、皆、等し並に“坊や”扱い。でも、仕方ないです。何しろ我々、此処へ初めて来たのが十代半ばの頃ですから」
「ノーマンが近衛見習になる以前……ということは、十年以上前か」
「はい、先生。……ああ、もうそんなに経っていたのか、と今ちょっと気が遠くなりました。我ながら爺むさいですねぇ、まだ二十代なのに。……ところで、昼食は如何でしたか」
「成程ノーマンが贔屓にしているだけのことはある」
 ララドは頷きながら応じた。
「あれは、その辺の料理人なぞ裸足で逃げ出すだろうほど、料理の味にやかましいからな」
「そうですね。時折は自分でも厨房に立たれてますからね」
 タリーが苦笑混じりに返した、その時であった。
 突然、ソフィアが、飛び上がるような勢いで席を立った。
 何事かと驚き見上げるララドとタリーの視線も何のその、ばたばたと慌ただしく、店の止まり木に駆け寄ってゆく。
「お姐さん──お姐さん、お姐さん、それ、十一年前にも作ってました?」
 止まり木の向こうで、ひと口大に切り分けた肉を網に乗せて焼いていた女主人が、やや怪訝そうな目を上げた。
「勿論。店を出した時から、頼まれれば拵えてるよ」
「お願いです、僕にも作ってください、それ! あのあのっ、十一年前、僕がこの町で通りすがりに嗅いで惹かれて探したのは、この匂いなんです!」
「おやまあ。そいつは嬉しいね」
 女主人はにっこり笑った。目の覚めるような美人とは言えないかもしれないが、年齢を重ねてもなお魅力的な笑顔の女性であった。
「いいよ。タリー坊やの分が先だから、ちょっと待ってもらうことになるけど」
「待ちます!」
 ソフィアは、黒褐色の両の瞳をきらきらさせ、そのまま、空いていた止まり木の席にすとんと腰を落ち着けた。
 ララドが歩み寄ってくる。
「……この匂いだったのか?」
「はい」
「うむ……鮮烈と言えば鮮烈だが、余り複雑な香りではないな」
「そりゃあ、複雑なたれは一切使わずに、ちょっとばかりの塩と胡椒を振って、あとは醤油だけを軽く塗りながら焼くんだもの」
 女主人は気さくな口調で説明を挟む。


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