「ま、滅多に頼み事をしないタリー坊やが頼むんだから、掛値なしに大事なお連れさんなんだろうね。いいよ。坊やが迎えに来るまで預からせていただくよ」
「宜しくお願いします。それじゃ私はひとまず。──どうぞ、先生。また後程お迎えに参ります」
ララドとソフィアを店内に送り込んだタリーは、軽く一礼してから、店の前を離れた。
「……さて、と」
自分が昼食を摂る店を探しているといった風情で、ふらりふらりと歩き始める。幸いなことに、例の傭兵の関心は予想通りタリーの上にあったらしく、相変わらず適当な間隔を保って付いてくる。
「……こちらから、きっかけを作ってみる、か」
小声で独りごつと、タリーは、手近な焼き饅頭《まんじゅう》の屋台に寄った。挽肉《ひきにく》入りのものと菜漬け入りのもの、そして玉蜀黍《とうもろこし》の粒入りのものを選ぶ。昼食としては正直なところ物足りない代物ではあったが、傍らに椅子と円卓を幾つか並べてくれている点で、人目の多い屋外で食べたいという彼の要求に応え得る屋台だったのである。
「お茶も下さいね。温かい方で。……はい、お代は此処に」
丁度空いていた円卓の、通りを見渡せる椅子を選んで腰を下ろす。お茶をひと口啜り、ほっと息をつく。
買ったばかりの焼き饅頭の中から、まず菜漬け入りのものを選んでぱくりとやったところで、影が差した。
「美味いか、それ」
タリーは目を上げ、思った通りの相手をそこに見出すと、「なかなか、いけますよ」と、行儀悪くも咀嚼《そしゃく》しながら応じた。
「まだ、一種類目だけ、ですけどね」
「じゃあ試してみるさ」
青い髪の青年傭兵は、軽く笑みを浮かべると、屋台の店先へ足を転じた。
タリーは、またひと口お茶を啜ると、手中にあった焼き饅頭の残りを口の中へ押し込んだ。ふたつ目をどちらにしようかと迷い、ふたつ共を半分に割って見比べていると、青年傭兵が戻ってきた。
「相席させてもらうが、いいか」
「どうぞ」
タリーは穏やかに返すと、結局先に、玉蜀黍の粒が餡《あん》になっている半割りを手に取った。
「……何で、両方とも割ってるんだ?」
「どちらが後口としていいかと迷ったんで、半分ずつ食べてみることにしたんですよ。両方食べ比べてみて、より後口が良さそうだと思った方を、最後に頂きます」
「変な奴」
青年傭兵は小さく笑うと、自分が買ってきた焼き饅頭にかぶりついた。
「思い切ってどっちかを選んで食って、それで駄目だったら、失敗したな、で済ませた方が早いじゃないか。思い切りが悪い奴とか言われないか?」
「親しい先輩からは、確かに時々言われますね。『お前は、選択肢がふたつ以上あったら、取り敢えず全部を覗いてみてから決めようとする、さっさと思い切れ』って。……ところで、訊いてもいいですか」
「何を」
「確かに、さっき、目が合ったなあとは思っていましたけれど、此処まで付いてくるほどに関心を持たれたとは意外です。どうして付いてきたんです?」
「撒こうとするかな、と思ったんだ」
青年は、ふたつ目の焼き饅頭を頬張りながら答えた。
「あの若い奴の護衛って感じで、しかも並じゃない、凄腕の武官だと見たからな。あの一瞬にあれだけ的確な捌きが出来るのは、突発的な危険に対処出来るよう日頃から厳しく鍛えてる奴だけだ。それだけの腕の奴が付いてるってことは、あの若い奴を含めて、かなり偉い奴のお忍びなんだろう。だから、付けられたら拙いと見て撒こうとするかな、と悪戯っ気を起こしたんだが……あんたは逃げなかったな」
「撒ける気がしませんでしたから」
タリーは今度は挽肉入りの半割りを手に取った。