「ですが、戦場に出ることのある人間は、それだけではありませんよ。それは何かと言えばそれが私の所属の答になるかもしれないので、言いませんけど」
「……まあ、いいさ。言うわけには行かない立場なんだろうから」
青年はあっさり引き下がった。
「だけど、名前くらい訊いてもいいか? 俺はマーナ傭兵隊のミディアム・カルチエ・サーガ」
「傭兵隊のミディアム……」
タリーはやや考え──そして思い出した。最近、周辺諸国で“青い炎《グルーグラス》”と恐れの込められた異名で呼ばれるようになりつつあるという若い傭兵のことを。
「……グルーグラス、という呼び名を聞いたことがありますが、それが君なんですか」
「自分から名乗ったわけじゃない」
ミディアム青年は肩を上下に揺らした。それもそうですね、と微苦笑したタリーは、お茶を飲み干した。
「……私は、タリー・リン・ロファ。さるお方にお仕えしている武人です。……ついでに話しておきますと、城の中にも出入り出来る身なので、君が関心を持っている近衛隊の練兵を眺めることも多いですが、幾ら“黒の部隊《ディーリー・ナーナ》”と恐れられていても、それは多くの者が並の騎兵十人分に相当する力量を有しているというだけの話です。だから、例えば君が並の騎兵千人分に相当する力量を持っていたなら、彼らは君の敵ではないですよ」
「並の騎兵十人分というだけ、とは事もなげに言うもんだな。……で、あんた自身は、その“黒の部隊”の連中と戦うとしたら、どの程度だと自分で思ってる?」
問われて、タリーは考え込んだ。謙遜するのが半ば習い性となってはいるが、ナカラ近衛隊長の指摘を待つまでもなく、自分は、隊内で二十名といない一等近衛兵である。また、先輩であり“マーナ随一の剣士《リラニー》”との誉れも高いノーマン近衛副長からも、「お前は、近衛隊の中じゃ、俺の次か、次の次ぐらいに腕の立つ奴なんだから」と何度となく言われている。
「……うーん、そうですねえ……三等近衛兵ぐらいなら、一度に五人まで、何とか相手出来るかもしれないと感じますね」
結局、実際よりも随分と控えめに、タリーは答えた。マーナ近衛隊では、一対一だけでなく、ひとりで多人数を相手にする訓練も課される。如何に自分の身を守りつつ相手を減らしていくかという対処能力が問われるわけだが、タリーはこの訓練で、常に二十人以上を蹴散らしている。幾ら相手の大半が三等近衛だからと言っても、そのひとりひとりは並の騎兵十人分に相当すると言われているのだから、極めて単純に計算すれば、彼の力量は“並の騎兵二百人以上”ということになる。
しかし、それを素直に答えれば、この青年傭兵は、ますます以て手合わせしたいと言い出しかねない。残してきた主君とレーナの長老候補のことも、そろそろ気になる。
「……何となく、五倍掛けして受け取っておいた方が良さそうだな」
ミディアム青年はそう呟いて、自分が先に立ち上がった。
「どうも、あんたのお仕えしているお方とやらは、俺の雇い主のようだし」
「……はあ、信用されてないんですねえ」