ふと思い立ち、『魔剣士サラ=フィンク』各話の導入を並べて、ちょっとだけコメントしておくことにしました。
『魔剣士サラ=フィンク』
魔剣を操る青年魔道士と亡国の元王女との旅の途上で起こる事共を描く長編ファンタジー小説
かつてケルリ王国を恐怖のどん底に陥れた無差別殺人鬼“魔剣士”サラ=フィンク。しかし、たまたま助けてしまったケルリの第二王女ミルシリアの存在が、彼を次第に変え始める。血に飢えた魔剣ブリザードと己自身を救う手立てを求め、彼女と共に〝魔道王国〟ルーファラを目指す彼の旅の途上に待っていたのは……
当然、物語全体の展開ネタバレを含む代物になりますので、
「その種のネタバレが多々あっても構わないから、大体どんな感じの話なのか事前に知っておきたい」という方向けの記事となります。
ただ、サラ=フィンクや魔剣ブリザードに纏わる謎・秘密そのものについては、殆ど言及しておりません(笑)。
なので、本記事を読まれた方でも、その辺りは愉しんでいただけるのではないかな……とは思っております。
とはいえ、「ネタバレは嫌だ派なのに、うっかり見てしまったじゃないか!」という事故を避ける為、多くの部分をJavaScriptで畳んでいます(汗)。読みたい方は、大変お手数ですが、指定の箇所をクリックしてくださいませ。
本作の全体構成は、「トータル・プロローグ」 → 第一部 → 第二部 → 「トータル・エピローグ」となっています。
まずは、その「トータル・プロローグ」と、第一部の第二話までを、畳まずに掲載しますね……無料配布冊子や『はたとせ』収録で、ほぼ事前に公開済みですし(汗)。
……あ、書籍上での構成に倣って、「トータル・プロローグ」の後ろに人物紹介も入れておきます。書籍掲載分よりも、ちょっとだけ詳しめのを(笑)。
「トータル・プロローグ」
リファーシア新暦五二〇年、夏、五大王国のひとつケルリが、若き地方領主アラン・シィ・アラスの反乱によって潰えた。辛うじて王城からは逃げ延びたものの、ならず者どもの手に落ちかけるケルリ第二王女ミルシリア・エル・カーリー。だが、突如として現われた黒ずくめの青年が、ならず者をひとり残らず斬り捨てる。〝魔剣士〟サラ=フィンク――かつて無差別殺人鬼としてケルリ王国から永久追放された筈の若者は、自分も殺されると確信したミルシリアの前で静かに剣を鞘に納め、「ブリザードは、今日のところはもう血は必要ないそうだ」という不可解な言葉を残して彼女に背を向けてしまう。
ミルシリアは、そのまま立ち去ろうとする相手に、「あたしも連れてって!」と咄嗟に叫んでいた……。
殆ど全て書いているような気もしますが(汗)、ええまあ、いいよね(苦笑)。
- サラ=フィンク

かつて老若男女お構いなしの無差別殺人鬼としてケルリ王国を恐怖のどん底に陥れ、〝魔剣士〟と呼ばれるようになった青年魔道士。
物語開始時点で24歳。黒髪黒目の持ち主。但し、或る状況下に置かれると、瞳の色が……(もにょもにょ)
とある事情から、恐るべき切れ味を誇る魔剣〝ブリザード〟を操るようになってしまった身であるが、当人はあくまで「自分は魔道士だ」という意識が強い模様である。
- ミルシリア・エル・カーリー(ミルシェ)

反乱で滅びたケルリ王国の第二王女。通称ミルシェ。
物語開始時点で17歳。淡い金色の髪に草色の瞳の持ち主。なお、この色の組み合わせは、旧ケルリ領の辺りでは余り珍しくもない。
攻め落とされた王城から脱出した先でサラ=フィンクに〝助けられた〟のが縁で、そのまま一緒に旅をすることになる。
多少気位の高いところもないではないが、折々にお忍びで町中を歩いていたという〝型破りな〟一面を持つせいなのか、歴史ある国の王女だったにしては随分と気さくな性格で、環境への順応性も高い。
「砂漠の暗黒神殿」
ケルリ王女の侍女ミルシェと名乗った娘と共に、アラシアと名を変えた旧ケルリの都ニフティスに滞在していたサラ=フィンクは、北西の地にある〝魔道王国〟ルーファラを目指すと告げ、出立する。無闇に人を斬ってしまわない為にと街道沿いの旅を避け、アラシアの北側に広がる〝崩壊の砂漠〟へと足を踏み入れた彼らは、やがて、大昔に滅びた古代魔道王国の遺跡へと辿り着く。だが、そこは、出会った者を必ず抹殺すると言われて恐れられている〝砂漠の蛮族〟が守る場所であった……
サラ=フィンクの抱える秘密や、彼が携える魔剣ブリザードの秘密が、或る程度ですが明かされる話です。
「ファルシアスの黒エルフ」
リファーシア新暦五一五年、ケルリ王国から永久追放された俺サラ=フィンクは、ケルリの西隣にある、犯罪都市として悪名高い都市国家〝盗賊たちの国〟ファルシアスに足を踏み入れた。そこでたまたま〝助けて〟しまった、ダークエルフの娘・エルシース――。初めて知った女性の温もりと優しさは、偽りの愛情すら得られなくなり飢え乾き抜いていた俺を僅かながら救ってくれたが、それは同時に、俺がこの街に留まることが出来なくなったことを意味していた。
翌朝、彼女の住まいを離れ、ファルシアスを立ち去ろうとした俺であったが……
サラ=フィンクの一人称で語られる、過去話。魔剣ブリザードとサラ=フィンクとの呪わしい繋がりの一端が語られ、また、彼の少年時代の境涯についての仄めかしが盛り込まれています。
……そろそろ展開ネタバレが混じり始めるので、
暫く隠します。ネタバレが苦手な方は、前出の「暫く隠します」のクリックをお避けください。
但し、携帯電話からの閲覧の場合、隠してある箇所が読めまくってしまうか、全く読めないかのどちらかです。御免なさい(汗)。
== 此処から「元通りに隠す」との記載がある場所までは
展開ネタバレ満載なので注意 ==
「魔の血族」
砂漠を抜け、宿場町トルガに辿り着いたサラ=フィンクとミルシェ。路銀が心許なくなってきたこともあり、ミルシェを宿に置いて〝冒険者の店〟へと仕事探しに出掛けるサラ=フィンク。だが、その店の掲示板には、アラシア王国が十万キルシュ(=銀貨十万枚)という莫大な賞金を懸けて旧ケルリ王女ミルシリアの行方を捜しているという布告が貼られていた。
長居は出来ない――短期間・単身でもこなせる仕事ということで、知識神ナファールの女性司祭が依頼主となっている怪物退治を引き受け、小さな古代遺跡へ向かったサラ=フィンクの前に、思わぬ相手が現われる……!
サラ=フィンクの血筋の秘密が、またひとつ明らか(?)に。あ、ミルシェの素性が最初っから彼にバレバレだったことも(笑)。
……あと、ミルシェに関して言えば、アラシア王となったアランとの関わりが仄見える展開があります。
「銀の髪のリュキア」
サラ=フィンクとミルシェが辿り着いた〝商人たちの国〟スタール王国の都レイリーでは、リファーシアじゅうから魔法戦士を募って競わせるという闘技会の開催が間近に迫っていた。普段以上に賑わうその街中で、彼らは、美貌の男娼と出会う。〝銀の髪の〟リュキア――。癖のない銀色の長髪と灰色の瞳というその容姿が、否応なしに「あの人」を思い起こさせ、サラ=フィンクの心は密かに掻き乱される。急接近してくる相手から逃れられず、惑わされてゆくサラ=フィンク。
だが、その誘惑の後ろには、魔剣ブリザードと、銀貨十万枚の〝賞金首〟となっているミルシェとを巡る企みが潜んでいた。
此処で明かされるのは、サラ=フィンクの少年時代の諸々……の断片ですね。彼の血筋に関わる仄めかしも続きます。ブリザードとの関係にも、僅かながら変化が生まれています。
地味に注目すべきは、前話では(……ふん、何が〝命と魂の庇護者〟なもんか)
と内心でミルシェに対して悪態を吐《つ》いていた彼が、この話では(……そうかもしれないな、本当に)
と思うようになっている、という点だったりします(笑)。
「ミルシリアの休日」
魔法戦士闘技会の最終日、闘技場へ出掛けたサラ=フィンクとミルシェ。闘技会を観戦したいというミルシェの希望を容れる恰好で、レイリー滞在を延長していたのだ。観戦中のおやつが欲しいというミルシェの為にサラ=フィンクが席を離れて間もなく、その席に、ひとりの男が腰を下ろす。サラ=フィンクが戻ってくるまでの席取りになると言われて容認したミルシェであったが、魔道士らしきその男は、サラ=フィンクが姿を見せるより前に、まるで亡霊のようにふっと姿を消してしまう。
サラ=フィンクの秘密、という点では余り動きはないように見えますが(……いや、彼の感知し得ないところで物凄く大きく動いているんですが(汗))、ミルシェの側で抱えていた諸事情は随分と明らかになります。
さて、ミルシェの前に現われた〝不思議なオジサマ〟の正体は……?
「暗黒魔道士の事情」
ルーファラを目指し、街道を離れて山中へ足を踏み入れたサラ=フィンクとミルシェ。季節は晩秋、山では既に雪が降り始めている。魔剣ブリザードに自らの血を吸わせることに意識を取られ、ミルシェの体調悪化を見落としていたサラ=フィンクは、風雪を凌ぐ洞窟で一夜を過ごした翌朝になってようやく、彼女の発熱に気付いた。遅まきながら薬草を探そうと洞窟を出た彼を、だが、突然の火球による連続攻撃が襲う。自分よりも遙かに力量のある魔道士が相手と悟るも、どうにか相手の死角に回った彼は、その頭上から魔剣ブリザードを叩き付けたが――
第一部の最終話ということもあり、サラ=フィンク(と魔剣ブリザード)の抱えていた秘密は、連載初回(※このお話は三回連載でした)で大盤振る舞いです(苦笑)。
本作の裏のヒロイン(違)と作者から言われている〝暗黒魔道士〟セルリ・ファートラムの抱えている「事情」とは、一体――その辺りが判明するのは、流石に連載最終回(第七章)でした(汗)。
元通りに隠す
此処までが、第一部です。
「連載一回毎に、主人公周りの謎を少しずつ、(読者に向けて)明らかにする」というコンセプトの下に書き進めた各話でした。
掲載誌では、この後ひとつ外伝を挟み、それから第二部へと進んでいますが、今般刊行した単行本では、勿論、外伝は外されています(汗)。
では、第二部の最初の方は、畳まずに載せましょう。
「族長の器」
ルーファラを離れて〝崩壊の砂漠〟にあるサラ一族の集落へと魔法で移動してきたサラ=フィンクとミルシェは、長老サラ=ルティイから、一族の間で起きているという〝騒動〟を聞かされる。族長位継承予定者であるサラ=フィンクの従弟サラ=アルクが、継承者の証となる魔法工芸品〝族長の器〟を、保管場所である古代遺跡から持ち帰れなかったというのだ。その器には、偉大なる先祖サラ=ファティジンの魂の欠片が封じられている。彼の血を引く者でなければ手を触れることすら出来ぬ筈の器が、一体どうして紛失していたのか?
そうこうする内、族長サラ=アヴァスが殺害され、その弟までもが災禍に遭って命を落とすという異常事態に発展。一日も早く器の探索を成し遂げ、次代の族長を決定しなければならない――継承資格を持つふたりの若者が、サラ=ルティイの命
《めい》で集落を旅立つ。外界を知る者として、サラ=フィンクは、ミルシェと共に目付け役としてふたりに同行することになるが……。
サラ一族のごたごたがメインとなりますが、サラ=フィンクがミルシェに対して抱《いだ》いている心持ちの変化が顕著になってくるお話でもあります。
「守秘の流儀」
リファーシア新暦五一九年初冬、俺サラ=フィンクは、ケルリの都ニフティスを久々に訪れた。魔剣ブリザードと無理なく生きてゆける土地はないものかという試行錯誤の放浪の果てに、〝混沌の国〟ミルタのあるタルティア島へ渡ろうと考えたからだ。
港の辺りを歩いていた俺は、余り広くもない路地で、俺を「兄の敵
《かたき》」と称する連中の襲撃に遭う。然程の難なく返り討ちにした直後、猫耳ハーフキトゥンの女がその路地に現われた。ブリザードが満足したばかりでもあり、無益な流血は避けたかった俺は、女に「立ち去れ」と警告する。ところが、その女は、俺が官憲から逃げ出したと見ると、思わぬ行動に出てきた――
サラ=フィンクの一人称で語られる、過去話。ファルシアスを離れてからミルシェと出会うまでの彼が、何処でどうしていたのか……を或る程度ながら埋める作品です。
ミルシェの瞳の色は、ケルリ辺りでは珍しくない色ということになってはいますが、このお話に登場してサラ=フィンクと関わりを持つ猫耳ハーフキトゥンのパルチャが、地味に同じ色の瞳の持ち主だったりします。……様々な積み重ねの上に、ミルシェとの出会いに至るわけですね(笑)。
なお、この作品は、掲載誌での連載が終わってからの書き下ろしです。収録に当たり、この場所が適当と考え、挟みました。
……では、此処からも、
暫く隠します。展開ネタバレを御覧になりたくない方は、前出の「暫く隠します」をクリックなさいませんよう。
== 此処から「元通りに隠す」との記載がある場所までは
展開ネタバレ満載なので注意 ==
「ノールの吸血女王」
旅に戻ったサラ=フィンクとミルシェは、〝賢者たちの国〟レムランド王国の西端に位置する町ノールへ到着する。冬季の長距離移動は避けたい彼らは、条件が良ければこの町で冬を過ごすことにしようと考えていたのである。だが、宿の主は、最近ノールの町に恐ろしい吸血鬼が棲み着いてしまったようだ、と彼らに語る。
魔剣ブリザードに具わる魔性のおかげで、吸血鬼のような〝知性を持つアンデッドモンスター〟に対して有利な立ち回りが可能なサラ=フィンクは、取り敢えず〝冒険者の店〟で情報を収集することにしようと、ミルシェに留守を頼んで宿を出る。事に依ると、吸血鬼退治に懸賞金が出ているかもしれない……そう思いながら、とある〝冒険者の店〟に入って掲示板に歩み寄ったサラ=フィンクは、そこに大々的に貼り出されていた布告を目にして、ぎょっとなった――。
ミルシェの行方に莫大な賞金が懸けられていたアラシアを離れたことで、やれやれひと安心……とは行きませんでした。何故か隣国レムランドまでもが、莫大な賞金を彼女に懸けていたのです(汗)。
この話から、「ハイラスの古代遺跡」を経て「パリクールの支配者」に至るまでの話は、一気に駆け抜けるべきお話ではないかと思います。……が、この「ノールの吸血女王」篇の次に外伝を一本掲載したところで、掲載誌自体が終刊。長らく続きが読めない状態になってしまいました(汗)。お待たせしてしまった皆様、ホント申し訳ありません(平伏)。
「ハイラスの古代遺跡」
ノールを脱出したサラ=フィンクとミルシェは、冬季の道悪に難儀しつつも、レムランドの都カンダスへと辿り着いた。魔法でミルシェの見た目を変えて街中へ入り、どうにか休息の時を得るも、心許なくなってきた路銀は稼がねばならない。単身〝冒険者の店〟に赴いたサラ=フィンクは、そこで、とある冒険者パーティーから勧誘される。彼らは、未盗掘の古代遺跡の情報を買ったにも拘らず、仲間の魔道士がどうしても同行出来ない状況となり、一時的に代わりを務めてくれる魔道士を求めていたのだ。
遺跡〝荒らし〟には抵抗のあるサラ=フィンクであったが、その人たちが困っているなら助けてあげれば、というミルシェの同意により、結局そのパーティーにミルシェ同伴で参加することに。だが、店を訪れてパーティーの一員である女戦士を目にしたミルシェは、何故かひどく動揺したような様子を見せた……。
かつてミルシリア王女の護衛を務める女騎士であった、マーサ・デル・アーデルが登場します。彼女もまた、ミルシェに劣らぬ数奇な運命を辿ることになる人物ですが(苦笑)、まあ、それはそれとして。
なお、第四章の展開は、キャラクター達が望んでハードモードに突っ込んでいった結果です(汗)。第四章執筆開始時点の作者には、あの時点でミルシェをホニャララさせるつもりは全く以てなかったんですよ……。
「パリクールの支配者」
アラシア王の側近たちに拉致されてしまったミルシェを救い出すべく、サラ=フィンクは、女戦士マーサを伴い、サラ一族の集落を訪れた。一族の助けを得てミルシェが監禁されている場所を探り、パリクール城に乗り込んだサラ=フィンクとマーサであったが、アラシア王の側近であるエルフの魔道士クーゼイの罠に嵌まって捕らわれてしまう。ミルシェの拉致は、サラ=フィンクを我が物にしたいと考えていたクーゼイの企みであったのだ。夢魔インキュバスを使い、ミルシェを淫らな精霊魔法の影響下に置いてある、とクーゼイから聞かされ、激しい憤りに震えるサラ=フィンク。
しかし、主君アランにミルシェを宛がって溺れさせてしまおうというクーゼイの思惑は、思わぬところから崩れ始める。不埒な魔法の餌食にされたというミルシェを救い出すべく、サラ=フィンクは、かつて〝血の契約〟を結んだ魔貴族
《ノーブルデーモン》シルヴィーナの助力も得ながら、密かな反撃を開始する――。
元は執筆予定がなかったにも拘らず、状況が二転三転してゆく内に、元々考えていた流れへと綺麗に繋がっていってくれたお話です。
サラ=フィンクが、或る明確な自覚に至る物語でもあります。
因みに、第一部最終話や第二部最終話を差し置いて、作中で最も長い一編となりました(汗)。
「賢者たちの国の内患」
あたしミルシリアとサラ=フィンクは、サラ一族の集落から、レムランドの都カンダスへと戻った。外界で〝嫁探し〟をすることになったサラ=フィンクの従弟サラ=アルクも、あたし達に付いてきている。
ハイラスの古代遺跡探索で一緒になった冒険者のノーグさん達によると、レムランド王国は、あたしのことを更に熱心に捜し始めているらしい。元々、レムランドからケルリに来た縁談って、第二王子の妃に……という話だったんだけど、どうやら、あんまり芳しくない理由が後ろにあるみたい。何処の王家でも、色々と頭の痛い問題があるものよねー。
春が来て雪が街道からなくなったら、早々にレムランド領を抜けてしまおう……と話していた或る日、ノーグさん達の以前の仲間だったという若い男の人が、店に来るなり倒れてしまう。聞けば、その人はレムランド貴族の庶子で、冒険者の暮らしに飛び込んでたんだけど、家督を継ぐべきお兄さんが急死したことで無理矢理に邸に連れ戻されてしまってたんだって。それが急に訪ねてくるなんて、何が起きたのかしら……?
ミルシェの一人称で語られる、どちらかと言うと息抜きの幕間話……のつもりだったんですが、書き終えてみたら妙に重い話に(汗)。
「歓楽都市の迎春」
あと何日かで、リファーシア新暦五二〇年も終わり、春が来る――。ふたり旅に戻ったサラ=フィンクとミルシェは、レムランド領を一気に抜ける為、ハイラスの遺跡にある魔法装置を使い、古代王国時代〝歓楽都市〟と呼ばれていたミランダルへと移動してきた。ミランダルは、古代王国滅亡時に都市全体を幻影で覆って外敵の侵入を防ぎ、それ故に、後の世で〝荒らされる〟ことが殆どなかった遺跡である。
この遺跡から更に東の諸都市の遺跡へ向かう魔法装置が動いてくれれば、危険なレムランド領を完全に抜けてしまうことが出来る――ふたりは、極めて良好な状態で残っていた宿泊施設に落ち着いた。明日には、早朝から、各装置が予定時刻通りに作動するかを確認して回らねばならない。寝室内にひとつしかない矢鱈と広い寝台に落ち着かない気分になりながらも、ブリザードを抱えて床に座り、眠りに落ちるサラ=フィンク。
だが、パリクール城以来サラ=フィンクを我が物にせんと付け狙い、隙を窺っていた鏡魔将
《ミラーデーモン》が、狡猾な罠を仕掛けてくる――
リファーシアでは一年の始まりが春なので、新年が来ると文字通り「迎春」となります。つまりこれは、年越のお話(爆)。
……いや、まあ、「春」という漢字は、他の意味も持っているんですけれどね(苦笑)。
「北行の旅路」
リファーシア新暦五二一年春、俺たちは、オルディアーナ大陸を東西に貫く〝旅人たちの街道〟の東の終着点であるラーヤンに到着する。〝東の大国〟ハングォの都だ。ミルシェに掛けられている〝呪詛〟の正体を求めて目指してきた〝念術王国〟パオミンは、此処から更に北へと延びる〝宝玉街道〟の先にある。
ところが、ラーヤンでは、妙なお触れが出ていたり、物騒な魔獣が街中に現われたり……。目的地であるパオミンでも、王家の人間以外に王位が禅譲され、それを認めず「魔物に国を乗っ取られた」と主張する〝叛徒〟との争いが起きているそうで、ハングォにまでその〝叛徒〟が潜入してきているらしい。きな臭い動きからは距離を置くに限る――ラーヤンでの滞在を早々に切り上げ、再び旅に戻った俺たちは、やがて辿り着いたハングォ最北端の町フーイの〝冒険者の店〟で、奇妙な仕事の依頼書を目にする……。
サラ=フィンクの一人称で語られる物語です。三人称でも良かったのかもしれませんが、サラ=フィンクが、とある件に関する〝気付きのチャンス〟を幾度も目の前にしながら、軒並避けたりスルーしたりしてしまった結果として……という展開を描くには、やっぱり一人称の方が適切かなと(苦笑)。
テーブルトークRPGで言うなら、折角ゲームマスターが折々に出してくれていたヒントを悉く無視して先を急ぎまくった結果、とっても困ったルートに突っ込んでしまう、という奴ですよ(大苦笑)。
「王の復活」
突然に攫われてしまったサラ=フィンクを探し出し、助けねば――取り残されたミルシェは、同じく残された魔剣ブリザードを腰に佩き、駆け付けた魔貴族シルヴィーナと共に、パオミンの都ターチャを目指して歩き出す。シルヴィーナが語るところによると、魔世界と人間世界とをふたつながらに支配下に置こうという身の程知らずの望みを抱
《いだ》いたエラルという魔貴族が、サラ=フィンクの身を己の憑坐
《よりまし》にしようとしているのだという……。
魔貴族の陰謀によってパオミンの王位から追い落とされてしまった老王、そして、力衰えながらも苦痛に耐えて魔世界を支え続ける永遠の王。ふたりの王は、果たして〝復活〟出来るのか。魔王レラサドスの〝弱体化〟に付け込んだ魔貴族エラルの企てを阻めるのは――
遂に、第二部最終話です。舞台が舞台だけに、本作の裏のヒロイン(違)も(以下略
「トータル・エピローグ」
……は、流石に、本編でお楽しみくださいませませ(汗)。
元通りに隠す
以上、ほぼ全話の簡単な(?)導入、そして作者からのコメントでした。
第二部の終わり方は、作者自身では、
「ハッピーエンドの皮を被っていながらも灰色の染みが残るノンハッピーエンド」だと思っているのですが、読み手の皆様はどう受け取られるのか……。
拙
《つたな》い紹介で本作に御関心を持ってくださった方、表紙込み820ページの上製本という1,090グラムの超鈍器ですが(汗)、是非ともお手に取ってやっていただければと存じます。
直接参加イベントには売り切るまで例外なく持参致しますし、来年(2019年)の7月頃までは、委託参加のイベントにも頑張って預けますので……!
因みに通販は、入金方法など色々な点で融通が利く「
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