=== 2022/9/22 22:30 追記 ===
読めなくなっているので好い加減で直さねば……と思い立って最新版を使ってみたのですが、ボックスの下に謎の空白が生まれるので首を捻っております。ひとまず、内容が読めることだけを優先しましたので、御寛恕ください(汗)。
=== 追記此処まで ===
公開前に散々導入テストはしたのですが、御紹介も兼ねての公開テストエントリーを投稿しておきます。
この瓦版ブログ上で小説を掲載する時には、縦書き表示のスグレモノ、縦書き文庫さんが提供してくださっている「nehan3」を使わせていただくことにしました。
長文でも場所をいたずらに占拠することなく、ページ送りで表示出来る、Web向きのJavaScript製組版エンジンです。
テストの為に流し込んだのは、『ミディアミルド物語』の或る外伝の、冒頭部分。徒然なるままに書き始めたものの、他の外伝や本伝を優先している内に放置状態になっている&物語終盤のネタバレを含んでしまうので当分外伝集には収録出来ないだろう(……そもそも、掲載部分の直後に、その将来のネタバレ話を含む箇所になるので、此処までしか載せられない(汗))代物でございます。
なお、タイトルはあくまで、此処に掲載する為に付けた仮のものだと思ってください。
内容的には、外伝集の果てまで読み倒している方ならば、割に美味しく感じられるのではないかと……。
では、以下、どうぞー。
閲覧するブラウザによってはルビがずれて表示されることもあるようですが、その辺りは御寛恕いただければ幸いです。
フォントは、当方が紙媒体本で使用している「DF教科書体W4」を優先順位一番にしてあります。ただ、有料フォントなので、お持ちでない方の方が多いかと存じます。その場合、Windowsユーザーの方でしたら、無料でダウンロード&インストール出来る「IPA明朝」の導入をお勧めさせていただきます。何しろ「MS明朝」よりは遙かに綺麗に見えますから(笑)。
これで、傍点が打てれば最高なんですけど……。
今のところは、以前の「万年貸切部屋」での連載物と同様、どうしても傍点を打ちたい箇所を太字にすることで凌ぎます(苦笑)。
読めなくなっているので好い加減で直さねば……と思い立って最新版を使ってみたのですが、ボックスの下に謎の空白が生まれるので首を捻っております。ひとまず、内容が読めることだけを優先しましたので、御寛恕ください(汗)。
=== 追記此処まで ===
公開前に散々導入テストはしたのですが、御紹介も兼ねての公開テストエントリーを投稿しておきます。
この瓦版ブログ上で小説を掲載する時には、縦書き表示のスグレモノ、縦書き文庫さんが提供してくださっている「nehan3」を使わせていただくことにしました。
長文でも場所をいたずらに占拠することなく、ページ送りで表示出来る、Web向きのJavaScript製組版エンジンです。
テストの為に流し込んだのは、『ミディアミルド物語』の或る外伝の、冒頭部分。徒然なるままに書き始めたものの、他の外伝や本伝を優先している内に放置状態になっている&物語終盤のネタバレを含んでしまうので当分外伝集には収録出来ないだろう(……そもそも、掲載部分の直後に、その将来のネタバレ話を含む箇所になるので、此処までしか載せられない(汗))代物でございます。
なお、タイトルはあくまで、此処に掲載する為に付けた仮のものだと思ってください。
内容的には、外伝集の果てまで読み倒している方ならば、割に美味しく感じられるのではないかと……。
では、以下、どうぞー。
王朝六軍の憂鬱(抄)
まさに〝漆黒部隊長〟になる為に生まれてきたような漆の黒髪と射干玉の黒い瞳。
そう言われる都度、彼は、酷く不満そうな表情をする。
「俺は、容姿で部隊長に選ばれたんじゃない」
それが、彼の言い分であった。
タロー・アル・ミュールゼン──王朝六軍の各隊を率いる部隊長達の中でも、個人の驍勇では紅赤部隊長アレヴィラ・リュ・シェコリャンと並ぶ、王朝六軍の双璧と言われている武将である。もう間もなく三十歳に手が届く筈だが、二十代半ばと言っても通用する若々しさと体力に満ち溢れている。
彼はまた、王朝六軍の各隊を率いる部隊長達の中では比肩する者が居ないほど、女性関係の華々しい男でもあった。もっとも、噂になる相手の半分は相手の側から望んで寄ってくるのだし、同時に複数の関係を並行させるという付き合い方をしない男だから、遊び人という評価は当たらないだろう。ただ、所謂〝交際期間〟が一体に短いので、女に堪え性がないという評価は甘受せざるを得ないのではないかと客観的には思うが、それも、実は──彼の女性遍歴の背後に横たわる事情を聞いたことがある私、蒼青部隊長ユーリー・フィオ・ヴィレットだから言えることだが──当たっているとは言い難い。
「違うんだよな……巧く言えんが、どの女も、何かが、違うんだ。俺の女じゃないって言うのか……」
彼がそう私に述懐したのは、共に過ごした臥所の中であった。他の女が相手なら言えない、ユーリー相手だから言えるんだ、とも、その時に彼は言っていたが、まあ確かに、幾ら歯に衣着せぬ率直さが売りである彼でも、言えないだろう。抱かれたばかりの男から「お前は何か違うな、俺の女じゃないな」などと言われたら、大抵の女は腹を立てるか、泣くか、冷めるか、呆れるか、軽蔑するか……少なくとも、私のように淡々と冷静に受け止めることは難しかったに違いない。
「本当に俺の女と言える奴に出会えたら、抱いた時に、何処かで無くした自分の半身を見付けたみたいな気がするんじゃないかって、漠然と思ってるんだが」
「永遠の片割れか」
「おっ、そいつはいい表現だな。貰った。……しかし、自分で言うのも何だが、本当にそんな女が居るもんかなあ、この世の中に。これだけ女を抱いてみても会えんってことは、一生会えんと思っておく方が正しいのかもしれん」
「そう諦めたものでもあるまい」
私は笑った。
「どれほど回り道をしても、最後に辿り着けば良い。貴官の永遠の片割れの方は彼女の方で、きっと貴官を探している」
「うーん、だとしたら、俺みたいな探し方はしないでおいてほしいな……」
「我儘贅沢だな」
私は再び含み笑った。
「自分の所業は棚に上げておいて女の側にだけ貞淑であることを求めるのは虫が好過ぎるし、第一、今迄貴官が抱いてきた他の女にも、探している〝本当の片割れ〟は居ただろう」
「お前のようにか。……まあ、お前だって、俺なんざ間に合わせの男に過ぎんだろうし」
「間に合わせとは思っていないが、他の女に渡したくないと思うほどの執着はない。貴官には悪いが、誘われたら必ず応じるという都合の好い女にもなってはやれぬ」
「……お前もなあ、もう少し柔らかい物言いが出来れば、アレヴィラの奴だって、少しはお前の魅力に気付いてくれように」
そこで「柔らかい物言いをすれば」ではなく「柔らかい物言いが出来れば」という言葉を自然に選べる辺りがこの男の真骨頂だろうと、私は思う。この男は、半ば無意識の手で、女の心の急所をしっかりと掴んでしまうのだ。アレヴィラ・シェコリャンに深く惹かれながらも全てを諦めている私でさえも、この男の手に心を掴まれることを拒む気になれないほどに。……大体、私がアレヴィラに惹かれていることを見抜いているのは、この男ぐらいなものである。他の者は皆、私とアレヴィラが決して相容れぬ対立関係にあると思っているに違いない。
「いや、気付いてないのは、当のアレヴィラだけじゃないか? 少なくとも、シーダルの奴は、気が付いてるぞ。……まあ、あいつも、叶わぬ片想いの深さ強さなら負けてないからな、だから、お前の秘めてる想いにも気付くんだろうさ」
シーダル・カー・ヤン翠緑部隊長は、温厚篤実さでは人後に落ちぬ人柄であるせいか、王朝六軍の双璧と呼ばれるふたりの陰に隠れてはいる。しかし、王朝六軍の六つの部隊の長の中で誰よりも若い二十四歳という年齢で、六軍総帥フメラン・モタ・クリアック将軍から翠緑部隊の精鋭一万騎を任されている、冗談にも平凡とは言えない武勇の士である。そして、武術の腕のみならず知略の面でも、王朝六軍で最も用兵に優れる晧白部隊長セルト・マ・リーオンが「いざ兵を動かして敵を陥れねばならない局面に立たされると、普段の温厚さが信じられないほど悪辣になれる稀有の武人だ。あと三年もすれば、私以上の知将になることだろう」と認めるほどの有能な将であった。
ところが、この若きシーダル部隊長には、諸人に広く知られている〝弱点〟がある。それが、この若者が抱え込む、報われる見込みの極めて薄い恋であった。……その片恋の相手である晧白部隊のサーリャ・レレム・セドリック分隊長は、私にとっては、或る意味、無関係ではない。彼女は、随分と以前から、アレヴィラ・シェコリャンへの好意を公言しているからである。「報われることはないとわかってるし、無理に迫って迷惑を掛けるつもりもないけど、気持ちを隠すのは嫌だから」と、本人の目の前で堂々と言ってのけ、その告白の余りの直截さにはアレヴィラも苦笑いで「応えられなくて御免、だけど迷惑だとまでは言わないから」と応じた──と、宮廷人の噂には伝えられている。
シーダル部隊長にとっての救いは、サーリャ分隊長がアレヴィラに倣ってか「おれはアレヴィラ部隊長しか眼中にないけど、シーダル部隊長の物好きな好意を嫌だなとか迷惑だなとか思うことはないよ」と、これまた公言していることだろう。……まあ、好かれた当人が「物好き」と評するのも無理はなかった。サーリャ分隊長は、美女と言うよりは寧ろ美男と言うべき男っぽい顔立ちの女性で、その男同然のさっばりした言葉遣いとも相俟って、男よりも女から恋われるような人物だったのである。彼ほどの武将ならそれこそ女など選り取り見取りであろうに、何でまた選りに選ってあんな男女に惚れているのだか……というのが、宮廷内の大方の見方であった。
……話がずれてしまったが、そんなシーダル部隊長は、王朝六軍の他のどの部隊長とも対立することなく、穏やかに接している。しかし、当然、親密度の濃淡は存在する。金黄部隊長であるチャグ・ル・ドルトは、シーダル部隊長とは一歳違いの若さで、人当たりの好さではシーダル部隊長にも負けない美男子なのだが、その〝好さ〟の質が微妙に異なるせいなのか、お互い、悪口も言わない代わりに親しく杯を交わすこともない、という間柄である。……因みにアレヴィラは、どうやら、ふたつ年下のチャグ部隊長を相当に嫌忌しているらしい。直情径行である割に慎み深い一面も持つ男だから口に出して相手を罵ったことはないが、目も合わせないし、公務の用件がなければ口も利かない、という有様である。だから、タロー部隊長などは、
「お前を嫌う気持ちを百とすれば、その百倍の強さで激しく嫌ってるだろうさ」
と言う。彼に言わせれば、アレヴィラは、本当の本当に大嫌いな奴とは口も利かないし、そもそも存在を無視する、のだそうだ。
「ユーリーの言動に何だかんだ文句を付けて一々突っ掛かるってことは、好き嫌いはともかく、気になって気になって仕方ない女だってことだろうが、と言ってやったら、むすっとして『余計な口を出してくるのは向こうの方だ』と言い返してはきたが、否定まではしなかったからな」
そんなタロー部隊長はと言えば、陰でも日向でも「チャグの奴は、嘴の黄色い雛なんて可愛い生き物なんかじゃあない。毛並みは黄色く光って見栄えがいいが、腹の中が真っ黒い狐だ」と貶して憚らない。……この評価は当たらずと雖も遠からずだと、私も感じている。頗る人当たりが好いのも、シーダル部隊長のような〝人柄の好さ〟から来るものとは異なり、心の底に秘めた野心に裏打ちされた打算から来ているのではないかと思われる節が、ふとした折に見え隠れするからだ。
「奴の目標は、最低でも、フメラン将軍の後釜に自分が座ることだろうさ」
最低でも──と言うが、武官にとって、六軍総帥以上の地位など、ログリアムナス王朝には存在しない。文官の長である宰相と同等、いや、兵権を委任されている分、宰相より上だと言われることさえある地位なのだ。……しかし、あくまで「ログリアムナス王朝には」存在しないというだけである。この世に、と言い換えれば、存在しないわけではない。だが、それはつまりは至尊の冠を頂く地位であり、それを望むということは即ち主君に反旗を翻して取って代わることを企図するという意味に他ならない。
とは言え、それが不遜で大それた畏れ多い考えである、と誰しもが言い切れるほどの光輝は、百年前ならともかく、現在のログリアムナス王家には最早、存在しない。
「……お前にだから言うが、正直、ログリアムナス王家は、もう駄目だと思う。今のコルギニー陛下は、余りにも、民の暮らしや気持ちを顧みなさ過ぎる……」 「それは、あの例の愛妾に溺れておいでのせいではないのか?」
「うーん……あんな餓鬼みたいな女男に振り回されるお方だとまでは思いたくないんだがなあ……」
そう言われる都度、彼は、酷く不満そうな表情をする。
「俺は、容姿で部隊長に選ばれたんじゃない」
それが、彼の言い分であった。
タロー・アル・ミュールゼン──王朝六軍の各隊を率いる部隊長達の中でも、個人の驍勇では紅赤部隊長アレヴィラ・リュ・シェコリャンと並ぶ、王朝六軍の双璧と言われている武将である。もう間もなく三十歳に手が届く筈だが、二十代半ばと言っても通用する若々しさと体力に満ち溢れている。
彼はまた、王朝六軍の各隊を率いる部隊長達の中では比肩する者が居ないほど、女性関係の華々しい男でもあった。もっとも、噂になる相手の半分は相手の側から望んで寄ってくるのだし、同時に複数の関係を並行させるという付き合い方をしない男だから、遊び人という評価は当たらないだろう。ただ、所謂〝交際期間〟が一体に短いので、女に堪え性がないという評価は甘受せざるを得ないのではないかと客観的には思うが、それも、実は──彼の女性遍歴の背後に横たわる事情を聞いたことがある私、蒼青部隊長ユーリー・フィオ・ヴィレットだから言えることだが──当たっているとは言い難い。
「違うんだよな……巧く言えんが、どの女も、何かが、違うんだ。俺の女じゃないって言うのか……」
彼がそう私に述懐したのは、共に過ごした臥所の中であった。他の女が相手なら言えない、ユーリー相手だから言えるんだ、とも、その時に彼は言っていたが、まあ確かに、幾ら歯に衣着せぬ率直さが売りである彼でも、言えないだろう。抱かれたばかりの男から「お前は何か違うな、俺の女じゃないな」などと言われたら、大抵の女は腹を立てるか、泣くか、冷めるか、呆れるか、軽蔑するか……少なくとも、私のように淡々と冷静に受け止めることは難しかったに違いない。
「本当に俺の女と言える奴に出会えたら、抱いた時に、何処かで無くした自分の半身を見付けたみたいな気がするんじゃないかって、漠然と思ってるんだが」
「永遠の片割れか」
「おっ、そいつはいい表現だな。貰った。……しかし、自分で言うのも何だが、本当にそんな女が居るもんかなあ、この世の中に。これだけ女を抱いてみても会えんってことは、一生会えんと思っておく方が正しいのかもしれん」
「そう諦めたものでもあるまい」
私は笑った。
「どれほど回り道をしても、最後に辿り着けば良い。貴官の永遠の片割れの方は彼女の方で、きっと貴官を探している」
「うーん、だとしたら、俺みたいな探し方はしないでおいてほしいな……」
「我儘贅沢だな」
私は再び含み笑った。
「自分の所業は棚に上げておいて女の側にだけ貞淑であることを求めるのは虫が好過ぎるし、第一、今迄貴官が抱いてきた他の女にも、探している〝本当の片割れ〟は居ただろう」
「お前のようにか。……まあ、お前だって、俺なんざ間に合わせの男に過ぎんだろうし」
「間に合わせとは思っていないが、他の女に渡したくないと思うほどの執着はない。貴官には悪いが、誘われたら必ず応じるという都合の好い女にもなってはやれぬ」
「……お前もなあ、もう少し柔らかい物言いが出来れば、アレヴィラの奴だって、少しはお前の魅力に気付いてくれように」
そこで「柔らかい物言いをすれば」ではなく「柔らかい物言いが出来れば」という言葉を自然に選べる辺りがこの男の真骨頂だろうと、私は思う。この男は、半ば無意識の手で、女の心の急所をしっかりと掴んでしまうのだ。アレヴィラ・シェコリャンに深く惹かれながらも全てを諦めている私でさえも、この男の手に心を掴まれることを拒む気になれないほどに。……大体、私がアレヴィラに惹かれていることを見抜いているのは、この男ぐらいなものである。他の者は皆、私とアレヴィラが決して相容れぬ対立関係にあると思っているに違いない。
「いや、気付いてないのは、当のアレヴィラだけじゃないか? 少なくとも、シーダルの奴は、気が付いてるぞ。……まあ、あいつも、叶わぬ片想いの深さ強さなら負けてないからな、だから、お前の秘めてる想いにも気付くんだろうさ」
シーダル・カー・ヤン翠緑部隊長は、温厚篤実さでは人後に落ちぬ人柄であるせいか、王朝六軍の双璧と呼ばれるふたりの陰に隠れてはいる。しかし、王朝六軍の六つの部隊の長の中で誰よりも若い二十四歳という年齢で、六軍総帥フメラン・モタ・クリアック将軍から翠緑部隊の精鋭一万騎を任されている、冗談にも平凡とは言えない武勇の士である。そして、武術の腕のみならず知略の面でも、王朝六軍で最も用兵に優れる晧白部隊長セルト・マ・リーオンが「いざ兵を動かして敵を陥れねばならない局面に立たされると、普段の温厚さが信じられないほど悪辣になれる稀有の武人だ。あと三年もすれば、私以上の知将になることだろう」と認めるほどの有能な将であった。
ところが、この若きシーダル部隊長には、諸人に広く知られている〝弱点〟がある。それが、この若者が抱え込む、報われる見込みの極めて薄い恋であった。……その片恋の相手である晧白部隊のサーリャ・レレム・セドリック分隊長は、私にとっては、或る意味、無関係ではない。彼女は、随分と以前から、アレヴィラ・シェコリャンへの好意を公言しているからである。「報われることはないとわかってるし、無理に迫って迷惑を掛けるつもりもないけど、気持ちを隠すのは嫌だから」と、本人の目の前で堂々と言ってのけ、その告白の余りの直截さにはアレヴィラも苦笑いで「応えられなくて御免、だけど迷惑だとまでは言わないから」と応じた──と、宮廷人の噂には伝えられている。
シーダル部隊長にとっての救いは、サーリャ分隊長がアレヴィラに倣ってか「おれはアレヴィラ部隊長しか眼中にないけど、シーダル部隊長の物好きな好意を嫌だなとか迷惑だなとか思うことはないよ」と、これまた公言していることだろう。……まあ、好かれた当人が「物好き」と評するのも無理はなかった。サーリャ分隊長は、美女と言うよりは寧ろ美男と言うべき男っぽい顔立ちの女性で、その男同然のさっばりした言葉遣いとも相俟って、男よりも女から恋われるような人物だったのである。彼ほどの武将ならそれこそ女など選り取り見取りであろうに、何でまた選りに選ってあんな男女に惚れているのだか……というのが、宮廷内の大方の見方であった。
……話がずれてしまったが、そんなシーダル部隊長は、王朝六軍の他のどの部隊長とも対立することなく、穏やかに接している。しかし、当然、親密度の濃淡は存在する。金黄部隊長であるチャグ・ル・ドルトは、シーダル部隊長とは一歳違いの若さで、人当たりの好さではシーダル部隊長にも負けない美男子なのだが、その〝好さ〟の質が微妙に異なるせいなのか、お互い、悪口も言わない代わりに親しく杯を交わすこともない、という間柄である。……因みにアレヴィラは、どうやら、ふたつ年下のチャグ部隊長を相当に嫌忌しているらしい。直情径行である割に慎み深い一面も持つ男だから口に出して相手を罵ったことはないが、目も合わせないし、公務の用件がなければ口も利かない、という有様である。だから、タロー部隊長などは、
「お前を嫌う気持ちを百とすれば、その百倍の強さで激しく嫌ってるだろうさ」
と言う。彼に言わせれば、アレヴィラは、本当の本当に大嫌いな奴とは口も利かないし、そもそも存在を無視する、のだそうだ。
「ユーリーの言動に何だかんだ文句を付けて一々突っ掛かるってことは、好き嫌いはともかく、気になって気になって仕方ない女だってことだろうが、と言ってやったら、むすっとして『余計な口を出してくるのは向こうの方だ』と言い返してはきたが、否定まではしなかったからな」
そんなタロー部隊長はと言えば、陰でも日向でも「チャグの奴は、嘴の黄色い雛なんて可愛い生き物なんかじゃあない。毛並みは黄色く光って見栄えがいいが、腹の中が真っ黒い狐だ」と貶して憚らない。……この評価は当たらずと雖も遠からずだと、私も感じている。頗る人当たりが好いのも、シーダル部隊長のような〝人柄の好さ〟から来るものとは異なり、心の底に秘めた野心に裏打ちされた打算から来ているのではないかと思われる節が、ふとした折に見え隠れするからだ。
「奴の目標は、最低でも、フメラン将軍の後釜に自分が座ることだろうさ」
最低でも──と言うが、武官にとって、六軍総帥以上の地位など、ログリアムナス王朝には存在しない。文官の長である宰相と同等、いや、兵権を委任されている分、宰相より上だと言われることさえある地位なのだ。……しかし、あくまで「ログリアムナス王朝には」存在しないというだけである。この世に、と言い換えれば、存在しないわけではない。だが、それはつまりは至尊の冠を頂く地位であり、それを望むということは即ち主君に反旗を翻して取って代わることを企図するという意味に他ならない。
とは言え、それが不遜で大それた畏れ多い考えである、と誰しもが言い切れるほどの光輝は、百年前ならともかく、現在のログリアムナス王家には最早、存在しない。
「……お前にだから言うが、正直、ログリアムナス王家は、もう駄目だと思う。今のコルギニー陛下は、余りにも、民の暮らしや気持ちを顧みなさ過ぎる……」 「それは、あの例の愛妾に溺れておいでのせいではないのか?」
「うーん……あんな餓鬼みたいな女男に振り回されるお方だとまでは思いたくないんだがなあ……」
閲覧するブラウザによってはルビがずれて表示されることもあるようですが、その辺りは御寛恕いただければ幸いです。
フォントは、当方が紙媒体本で使用している「DF教科書体W4」を優先順位一番にしてあります。ただ、有料フォントなので、お持ちでない方の方が多いかと存じます。その場合、Windowsユーザーの方でしたら、無料でダウンロード&インストール出来る「IPA明朝」の導入をお勧めさせていただきます。何しろ「MS明朝」よりは遙かに綺麗に見えますから(笑)。
これで、傍点が打てれば最高なんですけど……。
今のところは、以前の「万年貸切部屋」での連載物と同様、どうしても傍点を打ちたい箇所を太字にすることで凌ぎます(苦笑)。