熱砂が舞う砂漠の国ウラウローで、傭兵を生業としている青年カルザス。
彼の中には「記憶」と「実体」を失くした「俺」という別人格とも言える存在がおり、彼の痕跡を求めて旅しているのだ。
ある日、謎めいた美麗の詩人シーアと出会い、その過去を巡る物語に、カルザスと「俺」は深く関わってゆく。
全てを語りたがらないシーアと、「俺」が時折見る古代魔導帝国の「夢」は不思議なほど絡まり繋がってゆき、真実を明るみに引っ張り出すこととなる。
そして全てが明らかになった時、彼らの運命は、国を揺るがす大きな闇に翻弄されていく。
「私は一人で生きていく……これからも、ずっと……」

砂漠の国ウラウローで、「記憶」と「実体」をなくした「俺」は、傭兵カルザスと共に、それらを求めてこの国を旅している。
傭兵という生業には似つかわしくないほど温厚なカルザスだが、剣の腕はなまくらなどではない。今も盗賊どもを打ち負かしたばかりだ。
「次の町ではゆっくりしたいですねぇ」など、呑気に構えていたカルザスと「俺」だが、砂漠で聞こえるはずのない美しいハープの音色に誘われ、そちらへと足を向けた。

「全部話すよ」そう言ってシーアはある教会の庭に据えられた二つの墓の前へと、カルザスを案内した。
古い墓石には、二つの名前が刻まれており、あやつはその墓石の前で、今まで見たこともないような安らかな表情を浮かべている。
「彼女の名前は……」
墓石に刻まれたその名を、そして歌うように過去と真実を語る。その時、「俺」は時折見る奇妙な夢との符合点に気がついた。

叶わなかった未来の物語。
幸せな幸せな未来の物語。
これはｉｆの物語。
一体誰が描いた夢なのか、
誰が望んだ未来なのか、
それを知る由《よし》はない。