交換日記ブログ「里の茶店 万年貸切部屋」の中から、
里長・野間みつねの投稿のみを移植したブログ。
2008年6月以降の記事から、大半を拾ってきてあります。
 

「レーナから来た青年」 (19/27)

「知らんのか? 傭兵隊に所属する俺達傭兵はな、正規隊の将兵と私闘に及んで相手の命を取ったら、死罪になっちまうんだ。だから俺は、貴様らの命は取らん。戦場に出れば幾らでも稼げる力量を持ってる俺の命と、丸腰の相手ひとりに手こずった挙句に伸されるような貴様ら腰抜け共の命とを引き替えにするのは、どう考えても馬鹿馬鹿しいだろ。……そろそろ、力量差を悟って尻尾巻いとけよ」
「ほざけ!」
 酒が入っているせいで危機感が薄らいでいるのか、残る二名は青年の警告を無視する形で突っ込んだ。
「馬鹿が」
 吐き捨てるように呟きつつ、青年は第一の相手の刃《やいば》を躱《かわ》す。そこへ、第二の相手の刃が突き出された。周囲の野次馬から悲鳴に似た喚声が一瞬上がったが、青年は素早く身を沈めていた。と見る間に相手は派手に転倒して、先程の仲間同様に苦痛の悲鳴を上げた。
「……凄いなぁ。マーナの傭兵は強いとは聞いてたけど」
 ソフィアは感心したように嘆息した。
「強いというか……それ以上に喧嘩慣れしてますね、彼は。今のも、軽い肘打ちで相手の出足を挫いただけです」
 タリーが応じる。
「足払い、肘打ち、自分からは仕掛けずに、相手の力を利用する立ち回り……致命的な怪我はさせまいと、一応の配慮はしているようですよ。……不謹慎な感想ですが、ウチの副長が相手なら、いい勝負になるかも」
 彼らが小声の会話を交わしている間にも、残るひとりが滅茶苦茶にアラリランを振り回して青年に斬り掛かっている。青年は若干面倒臭そうな表情を浮かべた。最後に残った相手は他の六人より多少は腕に自信があるのか、他の者が倒されても自分は引っ込まないぞとムキになっているのが、傍目にもよくわかった。
 さて青年傭兵はどうあしらうか、と興味津々で見ていたソフィアは、自分の向かいに当たる位置で先に転倒させられた兵士が呻きながら身を起こし、手にしていたアラリランを持ち上げたのを目にして、思わず声を上げた。
「──危ない!」
 投じられたアラリランは、声に反応してか咄嗟に飛び退《の》いた青年には当たらなかった。
 だが、本来当たるべき相手に当たらなかったそのアラリランは、勢い余ってソフィアの方へと飛んできた。
 野次馬達の悲鳴は、次の瞬間、驚きのどよめきに変じた。飛んできたアラリランは、素早く割り込んだ別のアラリランに遮られ、人のいない場所へ叩き落とされていたのである。
 飛来したアラリランを迅速に叩き落としてのけたタリーは、すぐに自分のアラリランを鞘に収め、一歩退いた。喧嘩騒ぎそのものに介入する気は、さらさらなかった。
 青年傭兵が、ちらっと彼らの方を見る。興味を抱《いだ》いたような色がその表情によぎったが、当座、目の前の喧嘩相手を優先することにしたらしい。今迄の動きが子供あしらいであったことを示すかのような勢いで、相手がアラリランを振り下ろしてくる手首をつかみざま背後に回り、嫌と言うほど腕をねじ上げる。不吉な音がして、相手が白目を剥いた。
「あーあ、肩、外されちゃいましたねえ……」
 タリーが苦笑する。それを聞いて、ソフィアは不安げに声を潜めた。
「肩を外すって……それじゃ大怪我ですよ、あの傭兵、罰を受けたりしないですか」
「いえ、人通りの多い街路で武器を振り回す方が明らかに悪いです。この程度なら、あの傭兵は全くお咎めなしでしょうよ。……町中で武器を振り回すだに物騒なのに、まして投げるとは。関係のない民間人に当たったらどうするんだか。武器を使うなら、少しは考えて立ち回ってほしいものです」
「……そうだな」
 ララドも苦い笑みを見せる。

2022年9月

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