通りの両脇には、いつも以上に、屋台が軒を連ねていた。最初の夫に先立たれて独り身となっていた第一王女のルディーナが此度めでたくトスタール地方──その昔、リーダと呼ばれていた国のあった地方──の領主と再婚した、それを祝う、という名目を掲げての店出しが多い。
「ルディーナ殿下は、デラビダの都人《みやこびと》に敬愛されていらっしゃいますからね」
最初の夫であったタマカンド領主との間では子宝に恵まれず、口さがない都人からは“石女《うまずめ》”と言われてはいたが、機知に富んだ才媛であるとの評判が高く、容姿も悪くなく、何より、年頭恒例の無礼講の宴に訪れる庶民達と言葉を交わすことを全く厭わない気さくな性格であることから、都デラビダの庶民達には概ね愛されている──というのが、タリー・ロファの説明であった。
「王族に限らず、王侯貴族が庶民に接する時って、匙加減が難しいんですよね」
ソフィア・レグは真顔で呟いた。
「下手にその身分に応じた態度を取れば、気取っていると反発される。でも、身分を問うことなく対等に扱おうとすると、威厳がないと馬鹿にされる。ただ、それも、極端に言えば、相手によって匙加減が変わるものなんですけど……そんな風に、接することの出来る機会を無礼講の宴の席だけに限定してしまうというのは、有効かもしれませんね」
「何を小難しい話をしておる。上つ方のことなど、上つ方に任せておくがいい」
一歩先を歩く縁なし帽のララド・オーディルが、振り返って苦笑いする。それは庶民のする会話ではないぞ、ということが言いたいらしい。
「それより、昼飯を摂る店の算段をせねばなるまい」
「そうでした。……でも、お昼時って、色んな店の色んな匂いが入り混じって、何が何だかわからなくなっちゃうなぁ……今日は屋台も沢山出てるし……」
ソフィアは、多少困惑したような表情で嘆息した。
「よく考えたら、あの時は確か夕方だったから、夕食時《ゆうしょくどき》の仕込みの匂いだったのかなぁ」
「匂いだけを頼りにしていては、お目当ての店は見付からないと思うんですが」
武人の軽装に身を包んでいるタリーが小首を傾《かた》げる。このような“お忍び”が敢行されることになった理由は、タリーのような第三者からすれば呆れ返るような事情である筈だが、ソフィアの見る限りでは、至極快く付き合ってくれているようであった。
「他国の使節が馬車で通る時に見た……ということであれば、他国の使節を迎え入れる町の東門から王城へと続くゾラド通りから離れることはない筈です。店の外観を覚えていませんか」
「うーん……看板は上がってたんですよね」
ソフィアは唸った。
「ただ、字までは読み取れなくて。薄暮の頃でしたから。文字自体が書かれていたかどうかも、記憶が曖昧です」
「看板の形に覚えはありますか」
タリーが更に問を重ねたその時、うわっという喚声が行く手で上がった。「やれやれー!」とけしかけるような大声も聞こえてくる。
「──喧嘩か?」
足を止めたララドが呟く。喚声の起こった方へと野次馬が急速に集《たか》り始めているのが見えた。