交換日記ブログ「里の茶店 万年貸切部屋」の中から、
里長・野間みつねの投稿のみを移植したブログ。
2008年6月以降の記事から、大半を拾ってきてあります。
 

「レーナから来た青年」 (12/27)

 改めて神妙に頭を下げるケーデルの謝罪に、とんでもない嫌がらせを受けた当のノーマン・ノーラは、ふんと鼻を鳴らして足を組んだ。その様子を見る限り、奇妙なことに彼は、それほど不機嫌というわけでもないようであった。
「悪意を腹の中に押し込めて作り笑顔で流す奴より、ああやって刺《とげ》だらけの嫌みをぽんぽん投げ付けてくる奴の方が、余程可愛げがあって気分がいい」
「閣下がそのようにお感じになる方だとは、承知しています。……ですが、あの者の主としては、だからと言って許すわけにも参りません」
「ああ、もういい。あんな餓鬼に虚仮《こけ》にされるのも癪だ、意地でも食ってやる。……ふふーん、こんだけ赤辛子が塗ったくってあったら、さぞかし体が温まるだろうさ。真冬だし、丁度いいってなもんだ」
「ですが副長、腹八分目以下にしておかないと、後でガダリカナが踊れなくなりますよ」
 タリーがさりげなく釘を刺す。
「私も手伝いますから、変な意地は張らないでくださいね。……それにしても、レーナの長老候補殿は、こんな愉快な騒動を御覧になれなくて、さぞ残念でしょうねぇ。私と似ているのではというケーデル一等上士官の見立てが正しければ、このような面白い騒動は大好物ではないかと推察するんですが」
「ど……何処が愉快で面白い騒動だ、何処がっ!」
 やがて、広間の片隅にあるその円卓では、戻ってきた侍者達も銘々に取り皿と箸とを手にして座に加わり──
 しばしの間、仲好く食卓を囲むなど思いもよらぬ顔合わせの面々が、口にする物の余りの辛さに顔を真っ赤にしながらひたすら食べ続けるという、滅多と見られぬ珍妙な食事風景が繰り広げられ、宴に出席していたマーナの諸人の注目を集める結果となったのであった。

 一方──
 マーナ王ララド・オーディルは、玉座よりも一段下に急遽設えさせた席に腰を据え、酒杯片手に、レーナの若き長老候補ソフィア・レグと向かい合っていた。
「そなた、他国に使節として立ったは初めてか」
「はい。初めてで何かと不調法もあるかとは存じますが、節度さえきちんと守っていれば良いから、折角の機会、他国の方々と好きに話をして交流を深めてきなさいと、使節団長たる外務参事官ホルデン・クナルメス殿からお許しが出ておりましたので」
「確かに、なかなか好き放題にしておったな。しかも、あのデフィラ・セドリックと途中までとは言えガダリカナを踊るとは、大胆なことをしてくれたものだ。デフィラが誘いを諾《うべな》ったことも軽い驚きだったが、一歩間違えば大恥をかくと承知の上で、声を掛けたのか?」
「御覧になっていらっしゃったのですか」
 ソフィア青年は、照れ臭そうな笑みを浮かべた。
「確かに、レーナの使節があんな真似を……と物笑いの種になるのは避けたかったので、なるべく目立たずに済むよう、ちょっとした策は講じたつもりだったんですが……ただ、私は幸いにもまだ十代なので、多少無様な真似をしても、若いのだから仕方ないなと大目に見てもらえます。それを利用しない手はないですから」
 ララドは訝しげに目を細めた。妙に聞き覚えのある言い回しだ、と感じたのだ。全く同じではないが、何処かで、似たようなことを、この青年から言われたことがあるような気がするのだが……
「……そなた、マーナに来たのは初めてか」

2022年9月

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