交換日記ブログ「里の茶店 万年貸切部屋」の中から、
里長・野間みつねの投稿のみを移植したブログ。
2008年6月以降の記事から、大半を拾ってきてあります。
 

「レーナから来た青年」 (26/27)

「こうやってね、さっと表面だけを最初に焼いてしまう。そうしておくと、肉の旨味が逃げない。後は、火を通す程度。焼き過ぎたら硬くなっちまうからね。アタシの生まれ故郷では、珍しくない食べ方だったよ」
「あ、ドリー姐さん、私は後でいいですから、先に若先生に差し上げてください」
 タリーが止まり木にやってきて、微笑と共に声を掛ける。
「気にせず召し上がってくださいね、若先生」
「有難うございます」
 笑顔で応じたソフィアは、醤油焼きの匂いを今一度胸一杯に吸い込むと、ふわっと息を洩らした。
「……あ、今ふっと思い出しました。トラバル広場、というのが近くにありました、あの時の宿舎」
「トラバル広場ならば、そこの通りをずっと抜けた先だ。城からも遠くはない」
 ララドは頷き、そして苦笑した。
「そうだな、よくよく思い出してみれば、わしがそなたに蹴り飛ばされたのも、トラバル広場に通じる路地であった」
「うわっ、先生、蒸し返さないでくださいよ、わざとじゃなかったんですから」
 閉口したような表情で首をすくめるソフィアの前に、「はい、お待たせ」という声と共に、付け合わせのシロビ菜が敷かれた牛肉醤油焼きの皿が置かれる。たちまちソフィアは笑顔を取り戻した。手回し好く添えられていた箸を手に取り、ひとつつまもうとして……はたと、手を止める。
「あ、お姐さん、お箸二膳と取り皿二枚、頂けませんか。先生のと、タリーさんのと」
「おや。若いのに出来た子だね」
 女主人ドリーは、既に手早く次の醤油焼きの下拵えに掛かっていたが、その手を止めて微笑むと、求めに応じて小さな皿を二枚、箸二膳と一緒に出してくれた。
「姐さん、白飯も軽く装ってあげてください。──白飯と一緒だと、もっと美味しく食べられますよ、若先生」
「はひ、ありらほーほらいまふ」
 早くも一個目の牛肉醤油焼きを口の中に放り込んでいたソフィアは、かんだ途端に染み出てきた熱い肉汁にほふほふ言いながらも、礼らしき言葉を口にしてぺこりと頭を下げた。

 全ての食事を終えると、タリーは、自分が勘定をしておくからと告げてララド達から離れ、円卓の上の空食器を片付けている女主人ドリー・フーズ・アーベンに歩み寄った。
「……姐さん、今日は本当に有難うございました。助かりました」
「ふふ、アタシこそ、普通なら一生に一度だってお目に掛かれないような経験をさせてもらえて、感謝してるよ。……マーナ王陛下の御臨席を賜る光栄なんて、こんな場末の店には、ないものね」
「うわ……やっぱり、姐さんには気付かれてましたか」
「長時間、拝見していればね。……もうひとりの若い子は、他所の国の使節なんだね。此処ら辺じゃ聞かない訛りがあるみたいだし。ルディーナ様の婚礼の祝いに来てたってところかな」
「……姐さんが将軍府に入ったら、ケーデル・フェグラム一等上士官と張り合えますね」
「ノーマン坊やが『大嫌いだ』って言ってる“青二才”君のこと? 会ったこともないから、どれほど凄いのか見当も付かないけど」
 ドリーは、低く短い笑いを洩らす。

2022年9月

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