フルタ製菓の食玩
《しょくがん》「新歴史浪漫 新選組 池田屋騒動」──この食玩フィギュア、なかなか出来が良さそうだということで、拙
《せつ》サイト内交換日記では無論、複数の行きつけサイトさんでも発売前から話題になっていた。
しかし私、実は、購入するつもりは全くなかった。
出来が良さそうというのはウェブで出回っている写真を見ればわかるが、立体物の場合、特に“土方歳三
《ひじかた としぞう》”という名前が付いてしまうと、たとえ殆
《ほとん》ど似ていなくともまともに見られないという困った性分だ。それに、池田屋騒動を扱うというコンセプトからすれば当然ではあるが、発売される隊士のラインナップの中に、芹沢鴨
《せりざわ かも》や伊東甲子太郎
《いとう かしたろう》のような、私のツボに響く人物の名はない。第一、手狭
《てぜま》な我が家では、そもそも飾る場所が極めて乏しい。サイボーグ002ことジェット・リンク君のフィギュアと伊東甲子太郎先生のフィギュアとが、ワープロ部屋に積み上げられているわずか十センチ四方のフロッピーディスクケースの更にその半分程度のスペース上で肩寄せ合って……いや、本当は背中合わせに近いが……同居しているくらいなのである。
ところが、そんな私が、発売されるが早いか、この食玩を怒濤
《どとう》の勢いで買い始めてしまう。
原因は、発売直前
|頃
《ごろ》にその正体が明らかになったシークレットフィギュアを引き当てたいという思いに取り憑
《つ》かれてしまった為
《ため》。
何と、この食玩のシークレットフィギュア、前々から冗談で「池田屋から逃げる桂小五郎
《かつら こごろう》だったりして(笑)」と言っていたのが大当たり、池田屋から逃げる姿でこそなかったものの(爆)、本当に桂小五郎だったのである。
此処
《ここ》で予
《あらかじ》め断わっておくと、私は、土方歳三好きの末席を穢
《けが》してはいるが、別段、桂小五郎を嫌ってはいない。幕末に限らず、人にはそれぞれの立場があり、思いがあり、事情があるものだ。そのことに思いを致せば、たとえどんなに贔屓
《ひいき》の人物と敵対した相手であっても、それだけの理由では嫌いにはなれない。自分が相手の立場に立たされたらどう考え、どう振る舞うだろう……とつい考え、自分の中にもその人がいるな、と感じてしまうことが多いから。
……ま、そういった堅い話は脇へ置いて、件
《くだん》の新選組フィギュアに話を戻すことにしよう。
東日本地区での発売日である二〇〇四年一月十九日よりも前から、この食玩、何故
《なぜ》かネットオークションに出回り始めた。
当然、出品された品物の写真も、そこには貼り付けられる。
シークレットフィギュアも単品で出品された、との情報を白牡丹さんから頂いたので、どれどれどんな代物
《しろもの》かいなと見に行ってみた。
そこに貼られていたのは、フィギュアの外箱と未開封の中袋とが並んだ写真。
ゴ、ゴミ袋……
このフィギュアの中袋の色、あの伊東先生フィギュアの中袋以上に、ゴミ袋っぽさがぷんぷんではないか!
これは是非、デジカメ写真の被写体にして、交換日記で公開したいっ!!
などと思っていたら、今度は、フィギュアそのものの写真が、別のオークション画面に登場した。
……へえ、なかなか恰好
《かっこう》いいじゃんけ。
このポーズ……ウチの伊東先生フィギュアと対峙
《たいじ》させてデジカメ撮影して、交換日記で公開したいわ(爆)。
そこまで思ってしまった時点で、もはや我が末路は決まったも同然であった。私の場合、人を楽しませるネタにしたいから入手したいという欲求に駆られたら、単に己の所有欲のみで動く時よりも遙
《はる》かにその欲求は強烈で、事が旨
《うま》く進まなかった時の諦めも非常に悪い。なのに、狙おうと決めた相手はシークレットフィギュア。他の十三種類に比べ、手に出来る確率は極端に低いのである。
まあ、それでも何とかなるだろうという軽ーい気持ちで、発売日の翌日、職場のあるビルの地下に入っているコンビニに並んだばかりのその箱を手に取った。
ひと箱二四〇円……高くて躊躇
《ちゅうちょ》するというほどの値付けでもないな、と思った。
まあ、これなら、懐
《ふところ》をそれほど痛めることにはならないか……
と思いつつ、最初は、多くても一度に四個と、少ーしずつ買っていた。ところが、幸か不幸か、この段階では同じフィギュアが殆ど重ならなかった。買い始めてからわずか二日間で、何と、全十四種類の内の十一種類までもが揃
《そろ》ってしまったのだ。
そうなると、色気が出る。此処まで来たのだから、全部揃えばいいなあ……などと。
だが、そこからが大変。買っても買っても、残り三種類が出ない。
選んで買っていては出ないとなると、店頭での己の選別運にばかり頼ってはいられない。出先のコンビニで見付けたら棚に残っている箱を全て買い占める、という所業まで始めてしまう。当然、フィギュアのダブりはあっと言う間に増殖。そうする内に、購入資金として下ろしておいた諭吉
《ゆきち》さんが綺麗
《きれい》に消えてなくなる。買い始めて三日目が終わる頃
《ころ》には、もはや何箱買ったかも覚えていないという有様。
……「次こそは」と言いながらギャンブルに嵌
《は》まる人の気持ちが、よーくわかるわ
[#ふたつ汗たらりマーク]
流石
《さすが》にこのままでは大変なことになる、という自制心もあって、四日目に入ったばかりの刻限、これで最後にしようと立ち寄ったコンビニで、棚に辛
《かろ》うじて残っていた箱ふたつを買い占めた。しかし、店長らしき商売上手な小父
《おじ》さんからレジで「明日のこの時間までにはまた沢山入ってきますから、パッケージを開けずに取っておきましょう、そこから好きなのを選んでください(笑)」とにこやかに言われてしまい、そこまで言われてしまっては……と、撤退を丸一日延期。ちなみにこの時、残るフィギュアは沖田総司君の彩色違いと小五郎君のみになっていた。
撤退を延期したことで、一旦
《いったん》締めかけた手綱
《たづな》が緩み、その日の日中、出先でコンビニを回る。
ところが、回って驚いた。どのコンビニに行ってみても、新選組フィギュアは売り切れなのである。
そしてその中に、あろう事か、お目当ての小五郎君フィギュアがケースに収められて飾られている店があった。無論、商品自体は影も形もない。見本であることは明らかだったが、思わず私、すぐ近くで別の品物を並べていた店員さんに、購入出来ないか訊
《き》いてしまった。結果は当然の如
《ごと》くアウトであったが、敵(笑)の姿を実際にこの目で見たことで、萎
《な》えかけていた闘志に火が点
《つ》いた。
ええいっ、見てろよっっ、絶対に捕縛
《ほばく》してやる〜っっっ!
……が、意気込みも虚
《むな》しく、次のコンビニで発見して買い占めた箱の中に小五郎君はいなかった。くっ、またか……流石は“逃げの小五郎”の異名を持つお方である(爆)。
そしてその晩、帰宅時に、昨夜のコンビニに立ち寄り、本当に未開封のままで棚に並べておいてくれていた六個入りパッケージ五箱の内、ふた箱を購入。
とっくの昔に、金に糸目が付いていない。
これで最後なんだからいいや、と思い切ってのことである。
日記で逐一
《ちくいち》報告していた買い込み方を見て心配してくださった親切なお方が「ダブったフィギュア、ヤフーオークションで出品しましょうか」と言ってくださったこともあり、後々
《あとあと》欲しい人の手に確実に届くなら構わない、という気持ちもあった。
しかし、残り二体のフィギュアは、その中からは出てこず。
やむなく私は、交換日記上で、「流石は“逃げの小五郎”君、そう簡単には捕縛出来なかった」との撤退宣言を出したのであった。
狙った相手が悪過ぎたか……(嘆)
明けて、土曜の午前。
いつものように、私は、母の買物の荷物持ちに駆り出された。
行きがけ、通り道にある昨夜立ち寄ったコンビニを覗いてみたら、おや、私が昨日大人買いした時に残った未開封パッケージ三箱が、まだそのまま残っているではないか。
……うーん、撤退宣言出したからな……
思いながら店を後にしたが、買物付き合いの間も気になって仕方がない。あんまり気になったので、「本当の本当にこれが最後」と言い聞かせながら、帰りにそのコンビニに寄り、なおも残っていた未開封パッケージ三箱を購入。……いや、より正確に言うなら、最初はふた箱だけレジに持っていったのだが、精算直前に残りひと箱も追加してもらったのだ。
そこにある箱全部を買ってもなお出なかったのなら諦めも付くが、仮にお目当てが出てこなかった時に「もしかしたら、買わなかったあの箱に入っていたかも……買えば良かったなあ」と後悔するのは真っ平
《ぴら》御免。
そんな気持ちが、幾
《いく》ら何でも買い過ぎだろそりゃ〜、という気持ちを土壇場
《どたんば》で押し切ったのである。
だが……
結論から言えば、その最後のひと箱こそが、勝敗の分かれ目だった。
何と、最後の最後に追加したその六箱セットの中から、沖田君の色違いと、探し求めた小五郎君とが、ふたつながらに出てきたのである!
……撤退宣言を出したもので、敵(笑)も油断したらしい(苦笑)。
という訳で、めでたく十四種類コンプリート。
この十四体のフィギュア、実は白牡丹さん宅へ引き取られてゆくことが早くから決まっていたのだが、御厚意により、開封・組立・写真撮影等
|一切
《いっさい》の許可を頂いた。有難う白牡丹さん(深謝)。
早速、各方向から撮影した小五郎君フィギュアの写真を御紹介しよう。……なお、此処までに上で載せた写真も全て、我が家で撮影したものである。
「四国屋付近の民家で身構える桂小五郎」だそうである。
この人、池田屋から逃げ出したというのは史実ではないのに小説(フィクション)のせいでイメージが定着した……という点では気の毒なお人である。ある種の歴史小説は功
《こう》も大きいが罪
《ざい》も甚
《はなは》だ大きいということは、土方さんや新選組を描いた小説が無批判に史実だと思い込まれている事例を嫌になるほど見聞きして痛感している。冗談では「え〜、池田屋から逃げる姿じゃないのか〜(笑)」と言ったりもするが、その辺りはけじめを付けておきたい。
……といったところで真面目
《まじめ》な話はお仕舞にして、数々の“お遊び写真”を。
小五郎君、新選組に取り囲まれちゃって危うしの巻〜(爆)。
槍を手に前で狙っているのは原田さん。しかし近藤局長は、抜刀
《ばっとう》こそしているものの、問答無用で斬
《き》りかかるつもりまではない模様。
わー、斜め後ろからは沖田君も狙ってるぞー(汗)。
局長とは対照的に、土方副長、誠の旗を片手に今にも捕縛の号令を飛ばしそうである。
……でも、後ろで腰掛けて悠々
《ゆうゆう》としている洋装土方さんが、この中で一番偉そうだな(爆)。
そして、これをやってみたかったが為に小五郎君捕縛に邁進
《まいしん》したという、上の二枚以上にあり得ないシチュエーションのショット(笑)。
お馴染み(?)伊東甲子太郎フィギュアとの、対峙写真である。
無論、史実では長州寛典論
《ちょうしゅうかんてんろん》を唱えている伊東先生であるからして、ま、あり得ない状況だろう……あ、取次なしでいきなり訪ねていったものだから「何奴?」と小五郎君に用心されちゃってるってシチュエーションならありかしらん。この写真だと、伊東先生の抜いてる刀は見えないからな(笑)。
……ってコラコラ、んな、案内
《あない》も請
《こ》わずにずかずか入室なんて失礼なことはしないってば、伊東先生は
[#ひとつ汗たらりマーク]
何はともあれ、斯
《か》くして、桂小五郎(のフィギュア)捕縛は、新選組の腕利き隊士ばかり総勢七六名(のフィギュア)を動員し、税込二万円近くを費
《つい》やして初めて、どうにかこうにか成し遂
《と》げられたのであった。
しかし、此処まで費用と人員(爆)を要してしまうとは……やっぱ、狙った相手が悪かったかな(苦笑)。
おまけ
「何故桂小五郎フィギュアの写真ばかり! 他の新選組隊士フィギュアの写真はないのか?」とお嘆きの皆様の為に、特別附録として(?)
シークレット以外の新選組隊士フィギュア写真集ページを御用意した(爆)。
但し、写真の枚数が多いので、ナローバンド環境の方は御注意を。
Copyright (c) 2004 Mika Sadayuki
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