【読み】 トラッシュ ハコノナカ
【著者】 せら ひかり
【表紙込みページ数】 378p
【初版発行日等】 2018年7月16日
【判型】 文庫判
【頒価】 1,500円
【サークル名】 hs*創作おうこく。
【ブース】 委託-04
【鈍器概要:250字以下】
由良の家には蔵がある。黒いものがわきでる箱、奥座敷から呼ばう声。「ここから出して」望まない進学先で、由良は屋敷の因縁と戦い、見知らぬ級友と出会い、やがてすべての解放を望む。白い手の招く先へ。
【抜粋:500字まで】
そっちに行ってはだめ。
小さな由良の後ろ頭が、蔵の方へ行ってしまう。蔵は夏でも静かで、涼しい。いろんな古道具があるので、ちょっと面白いかくれんぼスポットだ。
小さな由良を見送って、それ以上進めず、立ち尽くす。
ややあって、物音がした。家人達が精魂込めて、真冬に支度した味噌樽を倒し、小さな由良が切れ切れに悲鳴をあげる。彼女がまろび出るのを待たず、黒い触手が足をすくった。
だめ。両手で目を覆おうとしたが、できなかった。逃げることは許されていなかった。
逆に――もしかしたら、今の自分にならあの子を救えるだろうか。それで、足が動かないのだろうか。震える指を、真後ろから誰かが押し退けた。押し退けられた、と思ったのは、風圧を感じて思わずよろめいたせいなのか。
勇ましく吠えた、茶色の背中が、弾丸みたいに、地面に近いところを走っていく。
黒い、全く太陽を反射しないぬるっとした物体に噛みつき、細かな繊維に引きちぎりながら、犬は果敢に戦った。
騒ぎに気づいて、母屋から人が出てくる。それは初め、女達だったが、すぐさま、鉢巻をしめた男衆が飛び出してきた。
――21~22ページより
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